おめでとう、だいすき「わぁい、みんなありがとー!」
両手いっぱいにプレゼントを抱えた浴衣姿のはぐみちゃんが、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
こころちゃん宅で行われた誕生日パーティは大成功で、はぐみちゃんも大満足してくれたみたいだ。笑顔を見ると、私まで嬉しくなってしまう。
「ミッシェルも来てくれてありがとー! はぐみ、すっごく嬉しいよ!」
パーティ用の三角帽子を被ったミッシェルをはぐみちゃんが見上げれば、美咲ちゃ……ミッシェルはゆるゆると首を振る。
「当然だよ〜。はぐみちゃんが喜んでくれて、ミッシェルも嬉しいよ」
ミッシェルの大きな手がはぐみちゃんの頭を撫でる。えへへ、と笑うはぐみちゃんはとっても幸せそうで、今日美咲ちゃんにミッシェルをお願いして良かったなぁって思う。……美咲ちゃんは、大変だろうけど。
「うん! あのね、ミッシェル!」
「ん?」
勢いよくはぐみちゃんが抱き着く。ミッシェルは少しだけバランスを崩したけど、数歩後ろに下がるだけではぐみちゃんを難なく抱き留めた。
「はぐみね、ミッシェルのこと、だーいすきだよ!」
「……!」
屈託の無い真っ直ぐな笑顔と言葉と、息を呑む音。
きっとミッシェルの中で、美咲ちゃんは真っ赤な顔をしているんだろうなあ。想像して、微笑ましくて少し笑ってしまう。
「そういえばミッシェル、みーくん知ってる? さっきまでは居たんだけどなぁ」
「……えっ!? あ、ああ、美咲ちゃんは、えーと、」
動揺している美咲ちゃんの声は上擦っていて、いつもならさらりとやり過ごす質問も、慌てふためいていた。
こころちゃん達も美咲ちゃんを探し始めたし、そろそろミッシェルはバイバイかな。
「美咲ちゃんは、ケーキの準備を手伝ってるみたい。ミッシェルはそろそろ帰らなきゃなんだよね?」
「あ、えっと、……そう! そうなんだよ〜。だからはぐみちゃん、ごめんね。ミッシェルはもう帰るね!」
「そっかぁ……。うん! ばいばい、ミッシェル!」
助け舟に乗っかった美咲ちゃんが、早足でその場から去って行く。手を振るはぐみちゃんに手を振り返してから、走り出して行ってしまった。
数分後、汗だくの美咲ちゃんが慌てた様子で戻ってくる。
「あ、みーくん! 汗びっしょりだよ、どうしたの?」
「いや、その……、まあ、色々……」
あちこちに目が泳いでいるけれど、はぐみちゃんは特に気にしていないみたい。
美咲ちゃんが顔を真っ赤にしているのは、きっとさっきまでミッシェルの中に居たせいってだけじゃない。
「えーと、あの、はぐみ……あのさ、」
何かを言いたげに、美咲ちゃんの声が彷徨う。行き場の無い手が組まれて、指がもじもじと動いていた。
はぐみちゃんは何も言わず、続きを急かすことも促すこともせず、ただ首を傾げて黙って美咲ちゃんの次の言葉を待っている。
やがて唸っていた美咲ちゃんが、決心したように顔を上げて。
「あたしもはぐみのこと、だ、大好きだから!」
上擦った震え声で、そう言った。
会場内に沈黙が流れる。はぐみちゃんのぽかんとした表情に、美咲ちゃんはハッと気付いたような表情になって、また顔を真っ赤にした。
私はミッシェルの中身を知ってるから話が繋がるけど、はぐみちゃんにとっては美咲ちゃんが急に告白してきた様に見えるかもしれない。
「いや、ちがっ……、えーと、」
「……みーくん!!」
「え? うわっ!」
言い訳の言葉を探していた美咲ちゃんが、急にはぐみちゃんに飛び付かれた。今度は支えきれなくて一緒に床に倒れ込む。
それすら構わずに、はぐみちゃんは美咲ちゃんのことをぎゅーっと抱き締めて、自分のほっぺたを美咲ちゃんのほっぺたにくっつけた。
「みーくんにそんなこと言ってもらえるなんて、はぐみ、最高の誕生日だよー!」
「……いや、大げさだよ……」
今日一番の明るい声と、笑顔いっぱいのきらきらした顔。美咲ちゃんも言葉こそ呆れた口調だけれど、顔は真っ赤で、緩む口元を押さえきれてはいなくて。
「はぐみの方が、また一個お姉さんになったね!」
「……そんなん、たった2ヶ月だけでしょ」
勝ち誇ったように頭を撫でてくるはぐみちゃんに対して、美咲ちゃんはちょっぴり悔しそう。
二人のじゃれ合いを見ていたこころちゃんが満面の笑みでそこへと飛び込んで、薫さんが後に続いて。
私はそれを眺めて微笑んでから、運ばれてきたケーキを指差してみんなに声を掛けた。