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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    かおみさ

    #ガルパ
    galpa
    #かおみさ
    loftyPeak

    炎天の下、遠回り 公園のベンチに腰掛ける。日は傾き始めたけれどやっぱりまだ暑くて、セミの声がけたたましくて、座っているだけなのにタオルでいくら拭っても汗は流れるばかり。
     セミの声に混じって、元気に遊びまわる子供の声やお喋りする女子高生の声が聞こえて来る。楽しそうなそれらに耳を傾けながら、フェイスタオルを開いて頭に乗せる。夕方なんだからもう少しだけ手加減してくれたっていいのに、真夏の日差しは強過ぎてタオル如きじゃ日除けにもなりゃしない。


    「美咲」


     知った声が名前を呼んだので、視界の端を隠していたタオルを手で暖簾のように退けてみる。見上げれば、缶ジュース片手に立つ薫さんがあたしへと微笑んでいた。
     暑さで溶け切った顔をしているであろうあたしとは対照的に、薫さんは涼しい顔をしている。ただ、どうやらそう見えるだけで、額や首筋に汗が伝っているのが見えた。真夏の太陽は、美人に対してだろうが容赦ない。


    「待たせたね、暑かっただろう?」


     立ち上がってフェイスタオルを仕舞ったあたしに、缶ジュースが手渡される。白色の缶に青を基調としたロゴが入った清涼感溢れるそれは買ったばかりなのか、まだよく冷えていて心地良く両手を冷やしてくれる。そのまま首筋に充ててみれば、暑さで溶けそうだった思考や身体もちょっとだけマシになった。ほんの、ちょっとだけ。


    「ううん、あたしも今来たばっかり」


     お金払うよ、とバッグを開けようとするのを手で制される。奢ってくれるらしい。悪いからあんまり甘えたくはないのだけど、帰ろうかって歩き始めてしまったから払うタイミングをすっかり逃してしまった。
     大人しくその横を歩き出して、プルタブを開ける。一口飲めば甘ったるい味が口いっぱいに広がるが、次いで炭酸のぱちぱちした刺激が追い掛けてきて喉をすっと通っていく。喉を潤していく感覚が心地良くて、あっという間に缶の半分が無くなった。


    「いつも暑い中待っててくれてありがとう、美咲。本当は学校まで迎えに行ければいいのだけど」


     横を歩く薫さんも、あたしと同じものを飲んでいた。缶ジュースを飲む薫さんってなんか珍しいな。


    「いや、大丈夫だって。薫さんが迎えに来たら、花女はきっと大騒ぎだよ」


     ていうか今更思ったんだけど、今来たばっかりって台詞すごいデートみたいじゃない? うわ、恥ずかしくなってきた。いや、付き合ってるんだしこれもデートと言えばデートなのかもしれないけど。

     薫さんと付き合って数週間。学校は違うけれど、お互いバンド練習も部活も無い時は、こうして待ち合わせして一緒に帰るのが恒例となりつつあった。
     学校であったこと。バンドのこと。休日に遊びに行く予定のこと。他愛の無い話をしながら二人並んで歩く。あたしはこの時間がすごく好きで、楽しいんだけど。――問題も、あって。


    「薫さん、ジュースありがと。ごちそうさま」


     前を通り掛かった自販機横のゴミ箱に、飲みきって空になった缶を捨てる。からん、からん。缶が二本分落ちる乾いた音を聞いてから、また歩き出す。
     缶ジュースを捨ててフリーになった右手を、薫さんがちらちらと見てくる。突然ぎこちなく動き出した薫さんの左手が、迷うようにあたしの右手の周りを彷徨って。触れそうになるまで近付いて。……怯えたように、また離れていく。毎日見る光景だ。それがルーティンであるように、毎日と。


    (……やっぱり、まだダメか)


     あたしと薫さんは、まだ手すら繋いだことがない。

     告白は薫さんから。気障な言葉を吐いてあたしに詰め寄って、あんな堂々とした告白をしてきた癖に、いざ付き合い出したら全然手を出してこない。
     薫さんは凄くあたしを大事にしてくれる。連絡もマメだし、忙しい時もこうして家まで送ってくれるし、デートだっていつも薫さんから誘ってくれる。けれど、毎日のように会ってこうして肩を並べて歩いても、あたしの手を握ってくれることは無い。

     ――たぶん、怖いんだと思う。薫さんはああ見えて臆病で奥手なところがあるから。公共の場で手を繋ぐことを、あたしが嫌がるんじゃないかと心配しているんだ。
     なら、大丈夫だよってあたしが言うべきなんだろうけど。……それを口に出さないで恥ずかしがっているだけのあたしも、薫さんに負けず劣らずの臆病だ。


     横目で見ていただけの手から、視線を上へ。あたしと違う制服から更にもっと視線を上げれば、真っ赤な顔をして此方を見る薫さんと目が合った。見上げるあたしを捉えた瞬間、薫さんが動揺したように肩を跳ねさせる。


    「えっ、あ、す、すまない……っ!?」


     何故か謝ってくる。こんなに焦る薫さんも珍しいかも。その姿がなんだか可笑しくて、可愛いなとさえ思ってしまって。ぷ、と笑い声が小さく漏れる。


    「み、美咲?」

    「……あはは。薫さんってさ、こうなると案外いくじなしだよね」


     急に笑い出したあたしに、薫さんは意味も分からず首を傾げる。きょとんと、これまた珍しい顔をしている薫さんに、右手を差し出して。


    「ほら、手。繋ぐんでしょ?」


     薫さんの表情がぴたりと固まる。真顔のまま、あたしの差し出した手を見つめた。沈黙が流れ、さっきまでBGMに徹していた筈のセミの声が急にまた耳をつんざく。
     え、待って。繋ぎたかったんじゃなかったの?そこで黙られると、結構恥ずかしくなってくるんだけど。


    「え、わっ……!?」


     手を引っ込めようとしたその瞬間。背中と腰に手が回って、気付けば薫さんの懐に収まっていた。強く抱き締められていると気付けば、ただでさえ暑いのに余計に顔も身体も熱くなって。


    「……えっ、手、繋ぐんじゃなかったの?」


     上擦った声で尋ねてみたら、ぎゅうって腕の力が強くなった。ちょっと苦しい。もがいてみても脱げ出せなくて、薫さんが今どんな顔をしているのか全く見えない。


    「……そ、そうなんだが……。君があまりにも可愛らしかったものだから、その、」


     絞り出したような薫さんの声も、あたしと同じで上擦っていた。

     身体を離してくれたのなら、またあたしは右手を差し出す。ちょっとだけ眉を下げた薫さんが、嬉しそうな笑顔に表情を変えて。迷うように恐る恐る、あたしの右手を握った。



     僅かに吹く風も生温くて、日差しは依然として照りつけていて、流れる汗はべたべたと制服に貼り付いて、ただただ暑い筈なのに。
     繋いだあたしより大きな手から感じる温もりは、優しくて、あったかくて、それが不思議で。でもこの上なく幸せな気持ちになるなぁって、柄にもなくそんなことを思っていた。

     薫さんも同じ気持ちだと、いいな。
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