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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    かおみさ

    #ガルパ
    galpa
    #かおみさ
    loftyPeak

    嫉妬色の視線 熱気が冷めきらないライブ会場から外へ出て、カフェテラスで一息吐く。冷たい飲み物片手に火照った身体を冷やしながら、話題は先程まで観ていたライブのことだ。

     曲が最高にテンションが上がった。パフォーマンスが派手だった。ギターの人がカッコ良かった。クマが可愛かった。
     部活の先輩である奥沢先輩に誘われて初めて“ハロー、ハッピーワールド!”のライブに来た同級生達は、部活での奥沢先輩からは想像できないようなはちゃめちゃなバンドに、驚きつつも興奮を抑えられないようだった。


    (当然、でしょ)


     私はそんな中、一人優越感にも似た感情を抱く。奥沢先輩はこの日のライブの為に、寝る時間も部活の時間も削って頑張っていた。ライブの質が良いのは当然だ。
     同級生達の話題は、ライブから奥沢先輩へと移る。先輩、あんな曲作るんだねって。クマの中に入ってあんなに可愛い動きするんだねって。

     私は唯一、奥沢先輩がハロハピで活動していることを去年から知っていた後輩だ。中等部で奥沢先輩がバンド活動を始めたと知って、ライブを観に行ったのだ。
     だって、先輩はいつだって優しくて、頼りになって、カッコよくて、可愛くて。ずっと抱えているこの感情の名前が“憧れ”なんて単純な名前ではないことは、もうとっくに気付いていた。



     帰っていった同級生達に手を振って、私は一人その場に残る。出て来てはないから、きっとまだ中に居るよね。自販機で買ったペットボトルを片手に、私はCiRCLEの中へと戻った。ラウンジに視線をやれば、ソファに座る見慣れた背中が一人で居るのを見つけた。


    「奥沢先輩」


     名前を呼べば、ちょっと驚いたような顔をして奥沢先輩が振り返った。私の顔を見ると、優しい微笑みに変わる。


    「あれ、またライブ観に来てくれたんだ」


     ありがとね、と言う奥沢先輩は穏やかな声音でそう言った。さっき買ったペットボトル飲料を差し入れとして渡せば、もう汗をかいてしまったそれを受け取ってくれる。
     他のバンドメンバーの方は、まだ着替えをしているらしい。奥沢先輩は着ぐるみを脱いだ後、取り敢えずラウンジに涼みに来たと話した。今の奥沢先輩は学校では決して見ることができないタンクトップ姿で、首筋や開いた胸元へ汗が滴っていて、それがなんだかいけないものを見ているみたいでドキドキする。
     奥沢先輩はさして気にしていないみたいで、タンクトップの胸元をぱたぱたと煽ぎながら首を傾げる。


    「みんなはもう帰った?」

    「あ、はい。少し前に。みんな楽しんでましたよ」


     それなら良かった、と呟くように零した奥沢先輩がふにゃりと笑う。ああ、可愛いなぁ、なんて。先輩に抱く感情なんかじゃないのにな。
     嬉しそうに笑う奥沢先輩は、きっと私がこんなどろどろした感情を向けているなんて気付いていない。私だけじゃない。同級生の子達だって、奥沢先輩に好意を寄せている子は多い。面倒見が良くて優しいから、そんな先輩が慕われない訳がないのだ。でもそれを言っても、きっとこの先輩は「そんなことないよ」って首を振って否定するんだろうな。


    「あの、奥沢先輩。もし良かったら、今度一緒にお出掛けしませんか」

    「え、あたしと?」


     そりゃ、奥沢先輩に言っているので。
     中等部の時と比べて、奥沢先輩の時間の大半はバンド関係だ。取られたみたいでちょっぴり寂しいけど、まあ奥沢先輩は別に私のものじゃないし。……でも、二人で遊びに誘うくらいは許されてもいいと思う。


    「……あたしと行っても、楽しくないんじゃないかなぁ」

    「そんなことないです!」


     苦笑いする先輩に、思わず声を荒げる。びっくりした顔してるな。もうこうなったら後には引けない。


    「私は、奥沢先輩と一緒にいて、楽しいです」

    「あ、ありがとう……?」

    「だって、私は、その、」

    「美咲」


     この勢いのまま気持ちを吐き出してしまおうとしたところで、低い声に遮られた。見れば、背の高い女性がそこに立っていた。この人のことは直接話したことはないけどよく知っている。ハロハピのギターの人だ。同級生達もカッコ良かった、と絶賛していた。
     彼女に気付いた奥沢先輩の表情が明るくなる。


    「あ、薫さん。着替え終わった?」

    「ああ。こころ達も、荷物をまとめて直に来るよ」


     そう言うと瀬田さんは、着ていた上着を脱いで奥沢先輩の肩に掛けた。暑いって、と拗ねたような口調で文句を言う先輩だったが、瀬田さんがその肩を押さえたので大人しく受け入れたみたいだ。
     瀬田さんがちらりと私の方を見た。ライブの時、客席に向けていたものとは違う視線を一瞬向けられるけれど、すぐに奥沢先輩に向き直る。


    「美咲も、そろそろ着替えておいで。この後はファミレスで打ち上げをすると、こころが言っていたよ」

    「え、そうなの?」

    「今回のライブは、美咲がとても頑張ってくれたからね。美咲の好きなものを食べようって」

    「……あはは、ありがと」


     微笑んだ奥沢先輩が立ち上がって、私に手を振る。


    「じゃあ、また学校でね。今日はありがと」


     私が手を振り返すと、瀬田さんが先輩の肩を抱いて奥へと歩き出す。ああ、結局何も伝えることが出来なかった。

     此方を振り向いた瀬田さんの鋭い視線。あんな視線を向けられた私はきっと、もう奥沢先輩に気持ちを伝えることは出来そうにない。 
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