新年になったら、やろうと思ってたこと。
お雑煮を食べる。
初詣に行く。
あとはこたつに入ってみかんでも食べながらお正月特番を眺める。
そんな感じで考えていたわけだが、残念ながらそれを叶えるのはほとんど不可能に近そうだ。
何故なら、今自分はベッドの上から一歩たりとも動くことができないから。
すでに朝日が差し込む1月1日、潔はそんなことをぼんやり考えながらベッドから動けずにいた。
動けない理由は2つ。
1つは昨晩年明けと共に恋人とベッドになだれ込んで、そのままかなり盛り上がった結果、指先1つ動かすのも億劫な程、腰やら全身が悲鳴を上げているから。
もう1つは、その恋人である男、凪誠士郎が潔を抱きかかえたまま、ぐっすりと眠っているからだった。
(さすがにやり過ぎた……)
ぐっすり眠る凪を横目に潔は昨晩のあれこれを思い出して、1人顔を赤くする。
年明けと共にベッドに沈められ、全身を隈なく愛された。潔の全身で凪が触れてない部分は無いのではないかと思うくらいに。おかげで全身は赤い痕がびっしりだ。
凪曰く「今年1年も潔に変な虫がつきませんように、っていう願掛けみたいなもんだよ」とのこと。
変な虫というのが潔にはピンときてないが、とにかく凪は全身への愛撫を止めなかった。
そのため、潔の内の熱が溜まりまくってしまい、我慢できずにとんでもない誘い文句で凪に先を促した。
結果、それが凪的にかなりキたようで。その後は、潔の制止も聞かず凪の好き放題にされ、今に至るという訳だった。
(もう二度とあんなこと言わねぇ……!!)
思い返すだけでも、恥ずかしさでのたうち回りたくなる。
とにかくそんな状態のため、新年早々潔は正月らしい過ごし方を諦め、今日は1日の大半をベッドの上で過ごすことを決意した。
(水飲みてぇ……)
一晩中好き勝手され、あれだけ喘がされば声も掠れる。ミネラルウォーターの入ったペットボトルはベッド脇のサイドテーブルに置いてあったが、残念ながら今の位置的に手を伸ばすだけでは届かない距離だった。
身体を起こそうとしたが、思いの外凪の拘束が強く、身体に力が入らない潔だけでは自力でその拘束から逃れるのは不可能だった。
仕方なく、凪を覚醒させる方向にシフトする。
「おい、凪。おきろー」
「んー……?」
軽く頬をぺしぺしと叩けば、凪の意識が僅かに覚醒する。が、すぐに目を閉じて潔を抱き締める力を強めた。
「あっ、こら、凪!寝るな!起きろ!」
「んえー…、いいじゃん、もうすこし一緒にねよー…」
「寝るのは良いんだけど!先に水だけ飲ませてくれよ」
「みず……?」
ゆるりと再び瞼を開け、凪は言われたことをゆっくりと頭で理解してるのか、んー、と少し唸ったあと身体を起こしてサイドテーブルのペットボトルを手に取る。
てっきりそのまま潔に手渡すかと思われたが、凪はそのままキャップを開けて水分を自分の口に含む。そしてそのまま、潔の唇を塞いだ。
「ん、う……っ」
びっくりして開いた潔の唇に凪の唇から水分が落ちて、そのまま喉を潤していく。
「ん、はっ……、ちょ、なぎ……っ」
「まだ欲しい?」
「自分で飲めるっつーの!」
「OK、もっと欲しいんだね」
「話きけ……っ、んんーっっ」
抗議の声も聞く耳持たず、凪は再度水分を含んでは潔の唇を奪う行為を繰り返した。
「人の話……っ、聞けっての……もう大丈夫……」
「ん?もういい?」
何度も唇を塞がれ、さすがに息も絶え絶えになってきて、潔は凪にストップをかける。
凪はキャップを締めてペットボトルを元の位置に戻すと、再び潔を抱きかかえてベッドに沈んだ。
「じゃ、もっかい寝よ」
ちゅ、と潔の頬にキスを1つ落として、瞼を閉じる。すっかりマイペースな恋人のペースになってしまい、潔は小さく溜息をつく。
「新年早々、今日はどこにも行けないな」
「いいじゃん、今日は潔はなんもしなくて良いよ。起きてからも全部俺がやるから」
「全部?」
「そ、昨日……いや、今日か。いっぱい無理させちゃったから、この後は俺がいっぱい甘やかすの」
「……無理させてる自覚があるなら、もう少し手加減してくれても良かったんじゃね?」
「それは無理。あんなこと言われて抑えろって方が……もがっ」
「だーーーっっ、いい!それ以上言うな!!」
大胆なことを言った覚えが有り過ぎる潔は凪の口を手で塞いで、これ以上言葉が紡がれるのを止める。
再び顔だけでなく全身じゃないかと思うくらいに真っ赤になった潔を、目を細めて愛おしげに見つめる凪。口を塞いでいた手のひらをペロリと一舐めする。
「おわっ!?」
驚きで凪の口元から潔の手が離れるが、その手を逃さず捕まえて凪は手のひらに唇を落とす。
「な、なぎっ……」
「いいじゃん、俺は新年の始まりから潔の新しい一面を見れて嬉しい。今日の潔を忘れない。これからも、もっと色んな潔を見せて欲しい」
「………できれば思い出さないで欲しいくらいなのに」
「それも無理。潔のことは1つ残らず覚えていたいからね」
「はー……、本当にお前俺のこと好きなのな」
「そうだよ、何度も言ってるじゃん。それともまだ伝わりきってない?」
もう一回教えようか?となる凪に、十分です……、と顔を赤らめたままやんわりと潔に拒否される。残念、じゃあまた今度ね、とだけ告げて凪は潔を抱き締めて再び就寝体勢になる。
「じゃ、もっかい寝よ。おやすみ潔」
「ん……、おやすみ凪」
気だるさが残る身体は、瞼を閉じればすぐに意識が遠のく。
起きたらどんな無茶を言ってやろうか。そんなことを意識が遠のく頭の中で考える。明日こそは2人で初詣に行こう。そこまで考えて、潔は愛しい人の腕の中、意識を手放したのだった。