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    蜂須賀

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    蜂須賀

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    種蒔く手の後日談を書きました。
    坊ちゃん顔真っ赤かわいいね。DTってばらしてごめんね。
    このあと覚醒した坊やにドンシクおいたんは「ガッ」といかれます。

    #jwds
    #怪物
    monster

    攫う ハン・ジュウォンは柔らかな土に膝をつき、額を伝う汗を拭った。深呼吸をすれば、肺腑に満ちた土の香りはたしかに、息吹きの実感をもたらした。

       ・・・
     
     イ・ドンシクは晩秋にジュウォンから花の種を受け取った。園芸の心得などあろうはずもなく、適当に蒔いたそれらはいくらも芽吹かなかったが、それでもちらほらと花を咲かせると嬉しくて、写真を撮っては贈り主に報告をした。ジュウォンは春が深まるころ確認に来、どうしてこれだけなんだとドンシクの不届きを責めた。それなら自分でやってみせろとケンカを売ると、ここを一面の花園にしてみせましょう、と返ってきた。そう言葉にしてしまえば凝り性なのはジュウォンの方で、暇を見つけては庭に通い、あれこれと世話を焼いた。
     そうやって草花の息遣いに心を寄せるようになると、ふたりは揃って空模様や気温を気にかけた。ジュウォンは朝晩の水撒きをドンシクに命じ、ドンシクは雑草を刈りに来い、今日は違う色のが咲いたから見ろ、とことあるごとにジュウォンを呼び寄せた。
     そうして結実した種は零れ芽吹いて、次の春には庭の角で一群の花畑をなした。
     それで満足したドンシクをよそに、その初夏ジュウォンは新しい花の苗を携えてやってきた。苗のポットに挿された写真によれば、花弁は淡い桃色で、芯にいくほど紅を濃くする鮮麗な花をつけるらしい。
     スマホで手順を確認しながら、見よう見まねで植え付け始める。夜勤明けの足で訪れた早朝のマニャンはまださして気温は高くなかったが、硬く締まった土を掘り起こしにかかると身体は熱を帯びてきた。まだ寝ているだろうとジュウォンは家主に声もかけずにいたが、ドンシクはその様子を窓から眺めていた。そして、頃合いをみて、背後から声をかける。
     「ハン・ジュウォン。そんなに汗をかいて。水は飲んでますか? どれ、冷えたのを持って行ってあげましょう」
     パジャマのスウェットのまま、サンダルをつっかけて庭に出てきたドンシクは、ペットボトルをジュウォンに渡すと縁台に腰掛ける。そして、作業を再開したおぼつかない手つきを観察し、しまいに笑い出した。
     「まったく。そういうのはね、千鳥に植えるんですよ、陽も水も受け取りやすいし、密に見える」
     「……あなた、そんなこと知らないでしょう」
     「ちょっと考えればわかることです。生真面目なだけではいけませんよ」
    見物に飽きたドンシクに、どうやら難癖をつけられているらしいと気づく。
     「あなたはなぜ手伝わないのですか?」
     「こうやってアドバイスをしてるじゃないですか。あなたはあまり、うまくないから」
    なにが、と食い下がれなかった。振り返って睨んだ男の目は笑っていなかったから。怯んだジュウォンにドンシクは言い募る。
     「どうしてそんな顔をするんですか?」
     「……どんな顔もしてません」
     「鏡で見てきてごらんなさい。ほら、もうそのへんで終わりにして。手を洗っておいで」
     
       ・・・

     手が黒く汚れるのはまだ怖かった。子供のころから好きではなかったが、爪の隙間に入り込み、指を赤く染めたあの血液の記憶と結びつけてしまってからは、どんなに自分に言い聞かせても、恐れは拭えなかった。
     背負うと決めた罪に、ジュウォンは使命を与えられたが、ドンシクのそばに立つことを自分に許せぬままでいる。そうありながらここを訪れる自分の矛盾を思うと、今指が震える理由が、水の冷たさか別のものか、ジュウォンにはわからなかった。
     いつまでも止まぬ水音に、ドンシクは洗面所を覗く。大丈夫だからもうやめろ、と優しく言い聞かせ、真白いタオルで手を包んでやる。
     「荒れてしまったね。ワセリンを塗っておくといい、どれ、貸してごらん」
    直接触れようとした手は払われたが、逃げようとする腕を捕まえる。
     「ねぇ、ハン・ジュウォン。そうしたい、とあなたが願うそれは、罪ではないはずですよ」
    ジュウォンはなんの話だかわからない、と言う顔をしてみせたつもりだがきっとしくじったに違いなく、あなただって、とただ目を逸らしてチグハグな言葉をこぼす。だが、それすら言い終わらぬうちに、ジュウォンの額に温かいものが触れた。それがイ・ドンシクの唇であると理解したのは、不精で伸びたた彼の髭が鼻先に擦れたからだった。
     その認識はジュウォンの頭の芯に熱を生み、聴覚はまるで機能しない。拍動のノイズの向こう、ドンシクの囁きが耳を撫でた。
     「他人と触れ合うことの、あなたがどこまで知っているのかわかりませんが。それでもまぁ、僕の方が経験値はさすがに上でしょう」
    こんなことくらいでそんなに赤くなっているジュウォナ、あなたよりはね、と笑うその瞳も、だが、口ほどの余裕があるはずはない。
     ドンシクは知っている。
     初心で苛烈なこの男の熱情にいずれ、攫われる。

                         了

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    蜂須賀

    DOODLEちょっと不思議話、1篇。
    弐之助さん主催のアンソロジー『幻想奇譚蒐集録』より再掲
     二次元、映す面、その輪郭 三綴りその朝は頭痛と上がってくる胃酸の不快感で不機嫌に髭をあたっていた。電動は好かないから毎朝カミソリを使っている。
    目覚めたのは居間の床だった。カーテンを閉める習慣を忘れて久しい窓から射す朝日が、目の前のアルミ缶から零れた液体と、緑の瓶に当たり煌めいていた。まるで他人事のようにそれをぼんやり眺めるが、数時間前の自分と今の自分が繋がっていないわけはない。浴びるように飲むアルコールはやがて循環代謝され頻繁に通うトイレで体外に排出されるものが、飲酒したという自己嫌悪だけはそうはいかず、体内に溜まり続けた。肉体を管として、なにもかもがただ通り過ぎればよいものを。
     うつろな顔と荒れた肌を見たくなくてカミソリを当てる部分だけに視線を集中する。それから目を閉じて指先の感覚で顎のラインと三日分の伸び丈を探る。ふと、かすかなカビの匂いがした。のろのろと手を動かしながらぼんやりと思う。雨? いや、ついさっき陽の眩しさで目が覚めたのだ、そんな予報だったか。天気などに関心を向ける生活でもないが、けれど時折見上げる空の色を無意識に読む癖程度は残っていた。
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