口直し煙草を吸っていても、コレジャナイ感が否めない。
呪霊の味を紛らわすために吸い始めた煙草だったが、吸ったところで、後味の悪さが消えるわけでもなく、それでも一時でも誤魔化すことのできる、手軽で身近なものであったから、手放せなくなっていた。
今日の任務で今後役に立ちそうな新しい呪霊を手に入れられたのは嬉しいが、取り込む時の不味さは今までと変わらなかったし、取り込んでからしばらく時間は経つけれど、思い出すとまた眉間に皺がよる。
ポケットに忍ばせておいた煙草を取り出し、ゆっくり火をつけた。飲み込んだ呪霊は、相変わらず不味かった。どう不味いのか、言葉で表現するとすれば、吐瀉物を拭いた雑巾の味、とでもいったところか。勿論、雑巾を飲み込んだり、味わったことはないけれど、とにかく口に入れて飲み下すまで、その臭いと舌に残る味があまりにもだし、飲み込んだ後しばらくは後を引いた。
実際煙草でさえも、そんなに美味しいものではないし、身体に良くないと分かっていても、一時でも紛らわせてくれるのならと手を出すのは、もう中毒症状と変わりないのではとも思うが、代替品を思いつかず、今さらやめられそうにもない。
ため息混じりに紫煙を吐き出す。吸い始めた一本が短くなってきた頃、おもむろに部屋のドアが開いた。
「口直し、する?傑。」
コンビニの袋を振り回しながら、悟がノックもせずに部屋に入ってくる。
「悟はいつになったらノックを覚えるんだろうね。」
「してもしなくても一緒なら、しなくても良くね」
「親しき仲にも礼儀あり、っていうだろ。」
そう言っている間に袋をひっくり返して、買ってきたものをテーブルに並べ始める。
「ガムにチョコ。あとはポテチ、飴、せんべい、ラムネ、あとは、ゼリーと俺のアイスっ。」
隣りに座りこむと間髪入れずにアイスを開けて、美味しそうに頬張る悟をしばらく眺めていた。そうして短くなった煙草を灰皿へ押し付けると
「それ、味見させて。」
と言って返事を待たずに悟にキスをする。すっかり口の中のアイスがなくなって、冷たかった悟の口内が少しずつ熱くなるまで、ゆっくり舌で堪能する。
口をパクパクとさせ、何も言えなくなって首まで赤く染まった悟を見て、にっこりと笑う。
「これ、美味しいね。でも、私にはちょっと甘すぎるかな。」
味覚がようやく自分に戻ってきた。味覚だけでなく、他の感覚や感情も動き出す。手放せないものがここにもあった。
「早く食べないと溶けちゃうよ、悟。」
「……傑のばかっ!」
ようやくそう言うと、残りのアイスを猛然と口に運ぶ悟を見て、甘い口直しもいいかもしれないと思い始めた。