「猫の日?」
きょとんとしたフィガロに、俺は答えた。
「はい。2がたくさんで、にゃんにゃんにゃん、みたい、な……」
言いながら、我ながら猫のこととなるとすぐはしゃいでしまうことや、猫の鳴き真似をしているようなものだという自覚が出てきて、少し照れてしまう。
「ふふ。かわいく鳴いちゃって、賢者様が猫みたい」
フィガロがからかうように目を細めてくるから、対抗して返す。
「フィガロも猫みたいですよ」
「そう思ってくれるんだ。どの辺りが?」
自分の気分でないときは近くに来てくれないところ、構いすぎると逃げてしまいそうなところ、けれど離れたところからは見てくれているところ、そうして、こちらが落ち込んでいると寄ってきてくれるところ……なんて言うのは少し踏み込みすぎな気もして、俺は曖昧に微笑んだ。
「自分の距離感を持っているところ、ですかね」
「ふうん」
ごまかしたのはなんとなく分かっていそうな顔で、フィガロは俺を見下ろした。
「きみのことだから、俺たち全員を猫みたいだと思ってそうだけど」
「程度はありますけど、まあ、そうかもしれません」
「じゃあ、抜け駆けされないうちに、俺がきみの猫になっておこうかな」
そう言うが早いが、フィガロは呪文を唱えた。長身の男がパッと消えて、代わりに毛足の長い、ふわふわした猫が現れる。
「か、かわいい!!」
思わず叫ぶと、猫はにゃあん、と甘えるように鳴いて、俺の足元にすり寄ってきた。しゃがみこんで顎の下を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。幸せな音に、どんどん頬がゆるんでゆく。
「はあ……。かわいいなあ……。フィガロはふわふわになるんですね。オズはつやさらでした」
心の声が自然と漏れる。なァ、とちょっと抗議するように鳴いた猫が、そのまま低い男の声で喋った。
「きみ、俺が初めてじゃないの?」
「なんか語弊のある言い方してません?」
ふすん、と鼻を鳴らして猫が俺の掌に頭をこすりつける。もう猫としてしか応えてくれないつもりらしかった。それなら、と俺も目いっぱい甘やかす手つきで全身を撫でまわす。次第に猫が身体の力を抜いていくのを感じながら、この姿の方が甘えられるのなら、たまにはこうしてもらうのもいいな、と考えていた。自分が猫に触りたいからというのも正直あるけれど、それでお互い癒されるならwin-winだ。
「フィガロ、かわいいです」
正直な感想を口にすると、猫は自慢げに目を細めた。