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    れあゆ

    ##原石

    空が近い。鈍い色の雲が迫り来るようでなんだか気分が悪くなる。
    連日の雨模様に付随して下がる気圧の低下が歩を苦しめていた。頭痛がするし肩も重い。それでも仕事は仕事と割り切り臨んでいるがこうも長続きされるとさすがに堪えてくる。今にも降り始めそうなねずみ色を睨んで重い足取りで今日の現場へ向かった。
    スタジオに着く頃には雨は降り出し鞄も少し濡れていた。タオルで水滴を拭いながらマネージャーを探す。痛み止めを飲んでおきたかった。歩の姿をみとめてやってきたマネージャーに頼むよりはやくペットボトルと薬が差し出される。さすがそれなりに長い付き合いをしてきただけはあると微笑めば気遣わしげな表情を向けられた。
    「今日の午後リスケになったから直帰でお願いします」
    「わかりました、振替は?」
    「まだ決まってないのでわかり次第連絡しますね」
    事務連絡を交わすがこのリスケも自分の身体を気にしてのことかと不安になる。それでもマネージャーがせっかく調整してくれたのを無下にするわけにはいかない。有難く午後は休ませてもらおう。鈍く痛みを訴える頭を軽く振って気持ちを切り替える。よし、と小さな声で気合いを入れてカメラの前に足を踏み出した。

    -----------------------------

    「立花さん撮影終了です!お疲れ様でした!」
    「ありがとうございました」
    今日の撮影はインタビューもないからこれで終わりだ。スタッフさん、マネージャーに挨拶をして廊下に出る。窓の外の景色が朝よりも明るくなっているように見える。スタジオから出ると数日振りの日差しが歩を照らした。鉛色よりは心地よいけれど今度は刺激が強すぎる。なんでもちょうどよくはいかないものだと苦笑いしながら帰路についた。水溜まりが日差しを反射し目がチカチカする。まだ痛みを覚える頭を抱えぼんやりと歩いていると突如ぐいと腕を引かれた。
    「っうわ!」
    「ったく、危ないな。前見て歩けっつの」
    呆れたような声がする方を見れば見慣れた赤い瞳がこちらを見つめていた。
    「玲司?どうしてここに?」
    「午後の予定がリスケになったからマネージャーのお迎え待ちしてたらなーんかフラフラしてるやつが水溜まりに突っ込もうとしてたからな」
    そう言いながら歩の額に手を押し付けてくる。振り払おうとするとぱっと離れた。
    「熱はないみたいだな」
    「…体調管理はしている」
    「それがぼーっとして水溜まりに入りかけたやつのセリフか」
    言い返せずむっと黙り込むと視線をあげた玲司がひらりと手を振った。
    「マネージャー!こっちこっち!」
    黒塗りのバンから玲司のマネージャーが顔を出す。
    「お疲れ玲司。ほらはやく乗って。立花さんもこの後どこ行くか言ってくれたら送りますよ」
    「いえ、そんなご迷惑では」
    「ほら乗った乗った!車ん中で聞くから」
    あれよあれよという間に後部座席に落ち着く。玲司も同じく午後はオフでこれから寮に戻るということなのでお言葉に甘えて乗せてもらうことにした。
    「それじゃあ出ますよ、寝ててもいいからね」
    「よろしく〜!」
    「よろしくお願いします」
    滑らかなアクセルと共に車が走り出す。心地よい揺れの中気圧が落ち着いてきたのが頭痛が和らいでいることに気付く。そうすると最近なかなか眠れなかった弊害で強い眠気に襲われた。隣の玲司を見遣れば目を伏せて眠っている、ように見える。マネージャーさんにも寝ていいと言われたし…と自分に言い聞かせているうちに瞼が落ちてきた。久しぶりの心地よい睡魔に身を委ね歩は意識を手放した。

    「………寝た、か?」
    隣から規則正しい寝息が聞こえてきたのを確認して玲司はそっと目を開けた。歩の身体からは力が抜けており眠り込んでいることが伺える。
    「上手く行った?」
    「行った行った、協力ありがと。ついでにこのままちょっと遠回りして帰ってくれる?」
    「玲司はほんとに過保護だな」
    マネージャーが苦笑いしながら寮とは少し離れた方向に車を向けてくれるのを見て彼は自分に甘いと小さく笑う。最近歩が体調を崩しかけていることはわかっていた。雨が続くと気圧が下がってダメなんだと前に言っていたから。だから今日の午後から天気が回復すると聞いて休ませたいと思ったのだ。ラッキーなことに今日の午後の仕事は歩と自分2人のものだったからマネージャー達に無理を言ってずらしてもらうことにした。仕方ないな、怒られてきてあげるよと笑ってくれたマネージャーには頭が上がらない。それでも。隣の座席でゆったりと眠る歩の顔を見ていれば間違っていなかったと思える。おやすみ、と声には出さず呼びかけて自分も今度こそ昼寝をしようと目を閉じる。暖かな日差しを浴びてきらめく水溜まりを、2人を乗せた車が走り抜けて行った。
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