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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 きみの連れる星影

    ##甲操

    2021.04.18

     今日は星がよく見える日らしい、と訪問者が言った。背中にはリュックに詰めた気に入りのお泊まりセット。扉を閉めないように差し込まれた爪先の丸い靴。背負うのは、瞬く星々に照らされた青混じりの夜空。下ろしたての濃緑のセーターに包まれて、白い吐息を連れた来主が笑っている。
    「いや、俺何も聞いてないんだけど」
    「おかあさんがね、良い空だから甲洋くんと見ておいでって言ってくれたんだ」
     持ち上げてみせるバケットには、夜食らしき小ぶりのおにぎりがいくつかと、羽佐間先生のメッセージらしきメモが収まっている。確かに見事な星の光だけど、聞けと顔に書いてある話の方が本題だろう。今日はどこで何を教わってきたのだか。
    「だから、事前承諾取るって約束は?」
    「してないけど、帰ってきただけだもん。だからただいまだよ」
     そっちは別に聞いてない。部屋があるんだからここも僕の家だと理屈を並べて押し掛けるのは、来主が何かを学んだ後の癖だ。学習の仕上げと言い換えてもいい。人に言い聞かせる復習こそ効率が良いと理解しているのか、幼子が親に学びを伝える相手の代わりとして、俺を選んでいるかは知らないけど。あちこちに飛んで騒ぎを起こされるよりはましだからと、結局受け入れてしまう。
    「なんでいつも転移使って来ないんだよ。上着も着ないで、寒かったろ」
     来主はここを家と言うくせに、転移で入り込もうとはしないし、合い鍵を受け取ろうともしない。ポケットやリュックに忍ばせてやっても、いつの間にか、部屋に与えた文机の引き出しに仕舞って羽佐間邸へ帰っていく。強引にでも持たせられないでいたせいで、一度すれ違いが響いて体を冷やさせてしまって以来、滅多にない外出からも早く帰る癖がついてしまった。出迎えてやると、なんとなく嬉しそうにするし。
    「だって、家には玄関から入るものでしょ」
    「そう教えはしたけどさ。こんな、体冷やしても使うなってつもりで言ってないよ」
     髪も、手も、夜風に熱をさらわれてしまっていた。熱を伝えるつもりで撫ぜた頬も、すっかり冷たくなっている。折悪しく浴槽は空にしたばかりだった。せめて出立時点で連絡をくれれば、少しは用意もしたものを。
     体調こそ崩しはしないものの、単純に冷えるとこいつは鈍る。特に、夜にかけての気温変化に弱かった。弱いと言っても、戦闘への支障はなく、日常での反応が半拍遅れる程度のものだったが。俺自身があまりそうした姿を見たくはなかった。無理をさせて静かになられるくらいなら、騒がしく飛び跳ねてくれている方がいい。
    「いいの。家まで歩いてくるの、結構好きなんだよ。きみに会えるまでの楽しみなんだから。ねえ、おかえりって言って」
    「はあ、うん。……おかえり」
     元々閉める気のなかった扉をもう少し開けて、屋内へ誘うように避けてやると、やっぱり嬉しそうににんまり笑う。言い慣れなかった「おかえり」をすんなり出せるようになったのも、こいつにつけられた習慣かもしれない。つられて微笑み返すところまで含めて。
    「屋根裏部屋の窓から眺めようよ。どっちかが流れ星をみつけたら、一緒にお風呂入ろ」
    「あれ、ロフトって言うんだよ」
    「屋根裏のほうがかっこいいから、間違っててもいいの!」
     もう一度ただいまを言って、目当ての部屋へ駆けていく背中を追いかける。その前に風呂の用意をしておこう。ブランケットと、飲み物と、部屋に置きっぱなしのカメラも渡してやろうか。扉を締め切る前に、空で星が一つ瞬いた。今夜も長くなりそうだ。
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