にょ マトリフは髪を指で遊ばせながらガンガディアを見上げた。ガンガディアの目にも今のマトリフは絶世の美女に映っているだろう。
マトリフとガンガディアはモシャスをして街でデートをしてきた。ガンガディアは筋骨隆々の人間の男に、マトリフは若くて美しい女に化けていた。そうやってデートを楽しんで、洞窟に帰ってきたが、早々にモシャスを解いたガンガディアとは違い、マトリフはまだ美女の姿のままだった。この姿のままでガンガディアを少々からかってみたかったからだ。
「なぁ……このままヤるか?」
身体をくねらせて、でかい胸と尻を強調するポーズでウィンクのひとつもくれてやる。もし自分が言われたら飛びつくだろう台詞も、ガンガディアなら一笑に付すだろうと思っていた。少しでもドギマギする姿が見れたら暫くは笑いのタネになる。
だがガンガディアは表情も変えずにマトリフを見ていた。呆れて言葉も出ないらしい。まったく冗談のわからないやつだ。
「なーんてな……え?」
冗談で終わらせようとしたら、突然に押し倒された。そして間髪を入れずに口を塞がれる。
「んッ、ちょっ!」
分厚い舌に口蓋を舐められ、身体が勝手に熱くなる。モシャスしているとはいえ、この身体はすっかりガンガディアから与えられる快感を覚えていた。触れた舌が頭の芯が甘く痺れさせ、しだいに蕩けていく。身体はこれから与えられる刺激を待ち侘びていた。
マトリフは自分からも舌を絡めていく。するとガンガディアの手が太腿に触れた。その感触がいつもと違うと自分でもわかる。若い女の太腿はしっとりと柔らかい。
するとガンガディアの手はゆっくりと太腿を揉んだ。まるで感触を楽しんでいるようである。
そのことにマトリフは些かムッとした。やはり若い女のほうが良いというのか。仕掛けたのは自分ではあるが、これほどがっついてくるガンガディアに、裏切られた気分になる。
「このっ……むっつり野郎が」
その横っ面を引っ叩いてやろとしたら、ガンガディアが急に身を引いた。マトリフは勢い余ってつんのめる。
「やはり私は元の姿のあなたを抱きたい」
「は……はあ!?」
「すまないがモシャスを解いてもらえるだろうか」
「て、てめえ! 味見だけしてポイ捨てかよ」
マトリフはガンガディアに元の姿が良いと言われたことに安堵しながらも、口だけは文句を言いながらモシャスを解いた。怒っているように腕を組んでガンガディアを見上げれば、ガンガディアは生真面目な様子で「すまない」と首を垂れた。それでマトリフが少しは気分が晴れていく。
「モシャスをしていてもオレなんだぜ」
呪文で肉体を変えてしまっても、厳密に言えばマトリフのものには変わりない。そんなことくらいガンガディアだってわかっているだろう。
「私もそう思って抱こうと思ったのだが、どうも気が進まなかった」
「オレが考えた絶世の美女に文句でもあんのかよ」
「いや、美しい造形だと思うよ。だが私は、あなたの容姿も好きなんだ」
「はぁ?」
「あなたの全てを愛しているからね」
手を取られて引き寄せられる。ガンガディアの指がマトリフの髪に触れた。
「あなたの白銀の髪は真冬の夜に降る雨のようだ」
愛しむように髪に口付けを落とされる。反対の手はマトリフの太腿を撫で上げた。先ほどとは違ってマトリフの感じる場所を狙って動いていく。
「あなたの脚は伸び始めた細い枝のように繊細で、触れるのを躊躇ってしまうよ」
そう言っている割にはガンガディアは意味ありげにマトリフの内腿を撫でていた。股間に近づくほどにその動きは勿体ぶるようにゆっくりになる。
「じっくりと味わっていいかね」
指で顎を掬い上げられる。いいからさっさとキスしやがれと、マトリフは目を閉じた。