吸血鬼パロ 開け放った窓から入る風によってカーテンが音を立てて靡いていた。暗闇に浮かぶ満月のため今夜は明るい。
マトリフは思わず首筋を撫でていた。そこには僅かに残る牙の跡がある。今夜もあいつが来るだろう。
するとチャイムが鳴った。どこか安っぽくて間延びした音に、マトリフはスリッパを鳴らして玄関へと行く。マトリフは確かめもせずドアを開けた。
「お邪魔します」
丁寧に頭を下げるガンガディアに、マトリフは口を曲げる。思ってたのと違うよなあと思ったのは何度目だろうか。
ガンガディアは吸血鬼だ。そしてマトリフはガンガディアの餌食である。といっても、ガンガディアは物語にあるような黒いマントは着ていないし、コウモリなんかに変化もできない。普段は善良な公務員として仕事をしているし、納税もしている。ただ月に一度だけは人間の血を飲んでいた。
「じゃあ飲めよ」
マトリフは言ってシャツのボタンを外していく。ガンガディアは大きな身体を縮めて遠慮がちに言った。
「何度も伝えているが、首からの吸血でなくて構わないのだよ。手首とかで全然」
「そんなんじゃ雰囲気が出ねえだろ」
吸血鬼といったら首からガブっとやるもんだ、とマトリフは言うが、ガンガディアは何故か遠慮する。それに飲む量だってほんの少ししか飲まないのだ。
「今日はいっぱい飲めよ」
「いや、そんな事をしてはあなたが辛いだろう。少しだけ頂ければ、あとはトマトジュースだけでも大丈夫だから」
「いいから飲め!」
マトリフはシャツの襟元を広げて首を差し出す。ガンガディアは申し訳なさそうにマトリフの首に口をつけた。
***
「よう、いい夜だな」
現れた吸血鬼を前にガンガディアは十字架を握りしめた。肌寒いほどなのに汗が滲んでいる。
「どうしたガンガディア。オレを招き入れてくれねえのか」
吸血鬼は招かれなければ建物に入れないらしく、ベランダの手摺りに腰掛けていた。黒いシャツに黒いスーツを身につけているから闇夜から生まれたように見える。
この吸血鬼は名をマトリフといった。マトリフがガンガディアの元に現れるようになって一月が経つ。
今日こそは吸血鬼に打ち勝って見せる。ガンガディアは強く心に決めて口を開いた。
「どうぞお入りください」
途端にマトリフは飛びかかってきた。ガンガディアは堪えきれずに床に押し倒される。小柄な身体のどこにそんな力があるのかと思うほどだった。
「じゃあ頂くぜ」
嬉しそうに開けた口に尖った牙が見える。血が飲める喜びのためか恍惚とした表情をしていた。その扇情的な姿にガンガディアは堪えきれなくなる。
「やはり我慢できない!!」
ガンガディアはマトリフと体勢を入れ替えると、鋭い牙に口付けた。舌でその滑らかな尖りを確かめるように舐める。するとマトリフがくつくつと笑った。
「待てよ。先に血をよこせ」
「待てない。今すぐにあなたが欲しい」
「しょうがねえな。あとでちゃんと飲ませろよ」
ガンガディアはもどかしく思いながらマトリフのシャツのボタンを外していく。それを満足そうに眺めながらマトリフはガンガディアの耳に齧りついた。