青 繰り返し見る夢がある。あいつが出てくる夢だ。
夢の中であいつは遠くからじっとオレを見ている。場所はその時々によって違うものの、何もせず、ただこちらを見ているのだ。
後悔を罪の意識で包んだような夢だ。それが原因に違いない。
ガンガディア。あの戦いで、オレの腕の中で死んでいった男。温かな青い血が法衣に染み込んでいくあの感覚をまだ鮮明に覚えている。
だがその夢を、オレは夢だと気づけないまま、ガンガディアを呼ぶのだ。緊張を持って呼ぶこともあれば、友人のように呼ぶときもあった。だがガンガディアはその声が聞こえないかのように何の反応もしない。焦れてオレが近付いていくと、途端にガンガディアの体の輪郭は歪んでいく。まるで水に溶けるようにその体は失われていくのだ。そして伸ばした手は空を切る。
そうしてガンガディアの眼差しだけが胸の中に残る。あれはオレを責める眼差しだ。魔王軍と戦いながら、ガンガディアを殺しながら、人間を見捨てたオレを責める眼だ。人間を見限るくらいなら、なぜ私を殺したのだと、なぜ多くの魔物を殺したのかと、ガンガディアは無言で言っている。
目が覚めてもこれが夢でないと確証が持てないまま天井を見上げていた。胸にある感覚は鋭いまま残っている。
逃れるように気怠い体で寝返りをうつ。頭がぼうっとして、まるで大泣きした後のようだった。
「なあ師匠」
その声に、昨夜は弟子をこの洞窟に泊めたことを思い出した。なんだと返そうとして、その声は喉で掠れて歪な音として発せられた。
「ガンガディアって誰?」
ポップの気遣うような視線を感じて身体が硬直した。見ればポップはすぐそばに立っている。伸ばされた指先が目尻に触れた。そこが濡れているとはじめて気付く。
「なぜその名前を」
見れば枕は濡れていた。夢を見ながら泣いていたのだと気付いて、息が詰まった。
「呼んでたから」
ポップの手がそのまま頬に触れた。生者の体温に安堵を覚えてしまう。だがそれに縋ってはいけないのだと、ましてやこの弟子をその相手にしてはいけないのだという小さな矜持が、ポップの手を押し返していた。
「ただの古馴染みだ」
そんな関係ではなかったはずだが、そう呼んでしまった。この傷にこれ以上触れられたくない。それだけの思いで突き放すように言ってしまった。
「……何か飲む? さっき湯を沸かしたから」
「ああ」
とんでもない失態だった。なぜポップがいるのにこんな夢を見てしまったのか。
だがポップはそれ以上は詮索してこなかった。いつものように振る舞いながら、時折こっそりと様子を伺ってくる。こちらが普段通り振る舞えば、その視線も寄越さなくなった。
「じゃあな、師匠」
やがてポップは帰っていった。海の向こうに夕陽が沈んでいくのが見えた。風が出てきて法衣の裾を揺らしている。帽子を押さえながら暫く海を見ていた。
赤く染まっていく海は青さを失っていく。その色ならば見ていても苦しくはなかった。
その赤色の中で不自然な青色を見つける。遠くの水平線にぽつりと青色があった。その青はじっと動かず、水面の上に浮かんでいる。
「ガンガディア」
思わず呟いてから、そんなはずはあるまいとかぶりを振る。これが夢だというのだろうか。
確かめに行きたい。そう思ってぐっと堪える。もし夢ならば、近付いた瞬間にその姿は消えてしまう。
だったら遠くから見ていればいい。己を殺した男の無様な生き様を見届けてくれ。
「ガンガディア……」
その声を風がさらっていった。これが現でも夢でも、こんな声ではあいつには届かないだろう。