夏祭り「ガキじゃあるまいし手なんて繋ぐかよ」
照れて言った言葉だった。初めて二人で来た夏祭り。マトリフが暑さと喧騒に参っていたら、それに気付いたガンガディアが手を繋ごうと言ってくれた。だがマトリフは気恥ずかしさのほうが勝ってしまい、ぶっきらぼうに断ってしまった。
ガンガディアは差し出した手をすぐに引っ込めて、取り繕うように笑みを浮かべた。
「すまない。私なんかと手など繋ぎたくなかったか」
ではもう帰ろうかと言うガンガディアに、マトリフは口を曲げる。自分のせいだと分かりながらも、どうしても素直になることができなかった。
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「はぐれたら困るだろ。手を繋いでくれよ」
毎年恒例になった夏祭りでマトリフはガンガディアに手を向ける。ガンガディアも心得ているからその手を繋いだ。
今年はついに浴衣を買った。二人で毎年行くのだからとガンガディアに言われて、さらに何着も試着してから、あなたはこの色が似合うと大褒めされて選んだ浴衣に身を包んでいる。ガンガディアも浴衣を着ているが、その似合いっぷりにマトリフは惚れ直してしまい、今夜は早めに祭りを切り上げて帰ろうかと思うほどだった。
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「暑いから外なんて行きたくねえ。アイス取ってくれ」
ソファで丸まりながらマトリフは言った。今日が夏祭りの日だと覚えていたのに、昼寝をしていたらいつの間にか外は暗くなっていた。クーラーがついていないのか蒸し暑い。
マトリフは酒が残っているのを感じながらソファから立ちあがろうとして、床に散乱している空き缶を蹴飛ばした。朝から飲んでいた缶ビールは中身が残っていたらしく、床がビールまみれになる。
「ああ、くそ。ガンガディア」
大きめの声で呼んでいるのに返事がない。マトリフは近くにあったシャツで床を拭いた。水が飲みたい。キッチンへ行ってコップを手に取った。
どん、と心臓を揺さぶる音がする。思わず窓を見ると、花火が遠くに見えた。もう花火が上がる時間なのかと思う。マトリフは水が入ったコップを持ったまま床へと座り込んだ。
「花火がはじまっちまったぞガンガディア」
もういない相手にマトリフはなおも言う。呼びかけ続ければ返事が返ってくるような気がして、マトリフはガンガディアを呼び続けた。