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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    オクノマ。NWH後の二人。オットーの誘惑。ワンライ参加作品

    #オクノマ
    okunoma

    誘惑「ノーマン」
     オットーの声は優しかった。まるでいつまでも泣き止まない幼子に話しかけるように落ち着いた声音だった。
    「君が好きなものを選んだけど、どれがいい?」
     オットーはピンクの箱を開ける。そこに並んだドーナツたちは、カラフルで陽気で過剰なカロリーの塊だった。箱と同じ色のチョコレートがべっとりとかかったものを、オットーは持ち上げる。
    「これは私のおすすめだが、どうだい。食べに来ないか?」
     オットーが声をかける先は暗い部屋だった。カーテンは全て閉め切っている。空気は澱み、埃も舞っているだろう。その部屋の中央に置かれたベッドにノーマンは潜り込んでいる。何日も。ノーマンやオットーが別の世界へと行き、帰ってきてからずっとだ。
     オットーはドーナツを箱に戻した。どうやらこの誘惑も失敗らしい。
    「昼からはハリーが様子を見にくるって。彼に心配をかけたくないだろう。起きて朝食を食べて熱いシャワーを浴びたらどうかな」
     その声にもノーマンは応えなかった。ノーマンはブランケットに包まったまま、どこかをぼんやりと見ている。その目からは時折涙が流れていた。
     ノーマンは後悔と罪悪感に苛まれていた。別の世界でしてしまったことは、向こうのピーターだけでなく、ノーマンをも深く傷つけた。
    「ノーマン。今日はいい天気だよ」
     オットーがいる部屋からの光が暗い部屋に差し込む。わずかにノーマンの顔が見えるが、ノーマンの目はもう誰も映していなかった。
     ノーマンからゴブリンは消えた。それは喜ぶべきことの筈だった。邪悪な分身。別の誰かに思考を操られる辛さならオットーにもわかる。自分が自分でなくなる恐怖は、存在の消滅にも似ていた。
     だがオットーには変わらずアーム達がいる。制御さえできていれば、彼らはかわいい助手たちだった。
     だがノーマンからゴブリンは消えてしまった。はたしてゴブリンとは、ノーマンにとってどんな存在だったのか。いや、ゴブリンこそ、ノーマン・オズボーンの核となる存在ではなかったのか。
     思い返せばノーマンは昔から魅力的で才能に溢れ時に無邪気で、そして傲慢だった。自分の才能の使い道についてオットーと意見は異なり、ノーマンはそれを使って富を築いた。だが、それはゴブリンがノーマンを操ったからではない。ノーマンがはじめから持っていたのだ。弱さも強さも。正しさも誤ちも。
     ノーマンの目からはまた涙が零れ落ちていた。今のノーマンは抜け殻のようだった。このままノーマンすら消えてしまうのではないかとオットーは思う。だからオットーは呼びかけ続けた。この世界へと留まってくれと誘い続ける。
    「ノーマン」
     この声はまだ聞こえているだろうか。


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    kisaragi_hotaru

    MAIKINGガンマトとハドポプが混在している世界線のお話の続きです。マトポプは師弟愛です。ひたすらしゃべってるだけです。
    ダイ大原作と獄炎のネタバレを含んでおりますので、閲覧の際には十分にご注意くださいませ。
    捏造と妄想がかなり激しいです。いわゆる、何でも許せる人向け、となっております。
    このシリーズは一旦ここで完結という形を取らせていただこうと思います。続きを待ってくれておりましたなら申し訳ないです……。
    大魔道士のカミングアウト 5 「――ハドラー様は10年前の大戦にて亡くなられたと聞き及んでいたのだが」

     本日二度目のガラスの割れる音を聞いた後、ガンガディアから至って冷静に尋ねられたポップは一瞬逡巡して、ゆっくりと頷いた。

     「ああ、死んだよ。跡形もなく消えちまった」

     さすがにこのまま放置しておくのは危ないからと、二人が割ってしまったコップの残骸を箒で一箇所に掻き集めたポップは片方の指先にメラを、もう片方の指先にヒャドを作り出し、ちょんと両方を突き合わせた。途端にスパークしたそれは眩い閃光を放ち、ガラスの残骸は一瞬で消滅した。

     「そうか……ハドラー様は君のメドローアで……」

     なんともいえない顔でガンガディアはそう言ったが、ポップは「は?」と怪訝な顔をして振り返った。
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