帰り道 夏の遅い夕暮れに向かって歩いていた。マトリフの手にもガンガディアの手にも紙袋が下げされ、中には何冊もの本が入っている。
たまに重なった休日だからと一緒に出かけ、見つけた古書店で二人して大量に買い込んだ。その古書店はかなり充実しており、お互いにじっくり吟味したら欲しい本がいっぱいになってしまった。ガンガディアは図鑑を多く買ったので紙袋はずしりと重く、マトリフもつい気分が高揚して買い込み、指に食い込む紙袋の重さに後悔の念が募った。
「持とうか?」
ガンガディアの申し出に、素直に頷いて紙袋を渡す。マトリフの手は赤くなっていた。
「すまない。もっと早くに気付くべきだった」
「お前だって重いだろ」
「鍛えているから大丈夫だ。なんならあなたを背負って歩ける」
「よせよ、年寄りじゃあるまいし」
マトリフは赤くなった手を揉みながら、今歩いている道を見る。駅に向かう道だが、大通りから外れているために他に人もいない。静かな環境がいいとガンガディアが選んだ街だから、人間よりも自然のほうが多いような場所だった。
「帰ってから読むのが楽しみだよ」
ガンガディアの声は弾んでいる。随分と探していた本を見つけたらしく、ガンガディアはその本がいかに素晴らしいかを語り始めた。マトリフは程よく相槌を打ちながら歩く。
古書店でのガンガディアの喜びようといったら、見ているこちらまで思わず笑みが浮かぶほどのものだった。その余韻はまだ続いているらしい。買った本を読み終わったらまた怒涛の感想を聞かされるのだろう。だがそれも幸せなことだとマトリフは思った。
今世でマトリフはガンガディアと戦わなくていい。ガンガディアは魔王軍の幹部ではないし、マトリフも勇者一行の魔法使いではない。その手を取り合って笑みを浮かべ、言葉を交わして共に眠る。そんな当たり前のようで尊い時間を共に過ごすことができる。それがマトリフにとっての幸せだった。
ふとガンガディアのお喋りが止んだ。相槌を打つのを忘れていたかとマトリフがガンガディアを見上げる。すると顔を真っ赤にしたガンガディアと目が合った。
どうしたんだと問う間もなく唇を塞がれる。だがすぐに離れていった。マトリフが呆気に取られていると、ガンガディアは至極真面目な顔で言った。
「あなたをずっと大切にするから」
それはマトリフの心臓を撃ち抜くには充分な言葉だった。マトリフもガンガディアに負けないほど顔が赤くなる。
「……突然なに言ってんだよ」
マトリフが思い出していた前世でのつらい別れなんて吹き飛んでしまう。今世での幸せはきっと、前世で得られなかった分も含まれているのだろう。
「……それはオレのセリフなんだよ」
今度こそガンガディアを大切にする。手を取り合って生きるとマトリフは決めていた。ガンガディアはマトリフの手をぎゅっと握る。
「最高に嬉しいよ」