あいシてる「へえ、似合ってるじゃねえか」
マトリフはにやにやと笑いながら弟子の姿を見た。ポップは突然にバイト先に現れたマトリフにぎょっとする。
「なんで来てんだよ!」
「おめえがここでバイトしてるってアバンから聞いたからな。からかいに来た」
言いながらマトリフは並んだアイスを眺めている。ポップのバイト先はアイス屋であった。しかも多くの種類が並ぶ人気のアイス屋である。ピンクの制服と帽子を被ったポップは、ニコリと引き攣った笑みを浮かべた。
「買わねえなら帰ってくれよ」
「買わねえとは言ってねえだろ」
マトリフはアイスを一通り眺めてから「食ったことねえからわからねえな」と呟いた。そしてあるポスターに目を止めた。それは「何を食べていいかわからないアナタへ! 店員がアナタのためにアイスをお選びします」というものだった。
「おっ、ちょうどいい。アレにしろ」
「アレって……おれが選ぶのかよ!」
「頼んだぜ、店員さん」
マトリフはケケケと笑ってポップを見ている。ポップは渋々アイスクリームディッシャーを手にした。並んだアイスを端から端まで迷うように見る。
「好きな味とかあるのかよ」
「別になんでもいい。適当に見繕え」
ポップはいい加減なことを言うマトリフにため息をつく。ポップは頭を悩ませながらマトリフの好きそうな味をいくつか候補にあげた。そこから組み合わせを考える。ポップは紙のカップに小さな三つのアイスをのせた。最初はミントとチョコのもの、次にナッツの入ったもの、最後にラズベリーとホワイトチョコのものだ。
「ほら、できたぜ」
カラフルなアイスを持ってポップはレジへと向かう。カウンターへアイスを置くと、レジを打ち込んだ。
「お支払いはパフパフでいいのかよ」
「おう」
マトリフがスマートフォンをレジに出す。軽快な決済音が鳴って支払いは済んだ。マトリフはアイスを手に取ってしげしげと眺めている。
「美味そうじゃねえか。じゃあせいぜい励めよ」
マトリフはポップに背を向けて歩き出す。だが少しも行かないうちに足を止めた。マトリフはゆっくりと振り返ってポップを見る。
「こいつをオレに食わせてどうするつもりだ?」
マトリフは一番上に乗ったアイスを指差す。それは「恋の媚薬」と名のつくアイスだった。もちろんポップはその名前を知っている。マトリフが含みのある笑みを浮かべているという事は、マトリフもその名を知っていたのだろう。
「ばっ……ちげーよ! 師匠が前にホワイトチョコが好きだって言ってたから入れただけだし!」
ポップは顔を赤くして言い返す。ポップがそのフレーバーを選んだのはほんの悪戯心だった。マトリフが知らずに恋の媚薬という名のアイスを食べているのを見て、ほくそ笑みたかったのだ。だがマトリフは当然のように知っていた。これではまるでポップがマトリフを誘惑しているみたいだ。
「ははっ、バイトが終わったらオレのとこに寄れよ」
マトリフは見せつけるようにスプーンでアイスをすくって口に入れた。赤い舌の上でアイスが溶ける。ポップは帽子を下げて赤い顔を隠した。