その花弁を頂戴「ったく、しつけーんだよ!!」
マトリフは飛びながら悪態をついていた。マトリフは高速トベルーラで砂漠を飛んでいる。そのマトリフの真後ろをガンガディアが追っていた。
「逃げ場はないぞ大魔道士」
「うるせぇッ!」
ガンガディアは飛びながらもイオなどを撃ってくるので、マトリフはルーラで逃げることも出来なかった。少しでもトベルーラの速度を落とせば捕まってしまう。街と違って遮蔽物のない広い砂漠で逃げ回るのは困難だった。
マトリフは単独行動をしていたため、仲間の助けも望めなかった。このまま追いかけっこをしていても魔法力が減るばかりだ。
マトリフは上空に向けて急上昇した。そのまま宙返りをする。マトリフはガンガディアと向かい合う形になった。ガンガディアは突然の方向転換にもついてきていた。
マトリフは既に手の中に作っていた呪文を炸裂させる。目眩しのために光を拡散させる呪文だった。
「うぐッ!」
ガンガディアが目を瞑ったのが見えてマトリフはルーラを唱えようとする。だがそれを見越したのかガンガディアがマトリフに向かって手を伸ばしてきた。マトリフは身を翻してガンガディアの手を寸前で避ける。
その瞬間にマトリフはガンガディアの服に花びらを見つけた。桃色の花びらが一枚、ガンガディアの服についている。意外なそれにマトリフは目を奪われた。
だがそれはほんの一瞬だった。次の瞬間、マトリフはルーラを唱えていた。砂漠から街へと飛んでいく。
「おわ、ビックリした!」
ロカは突然に目の前に降りたったマトリフに驚いた。マトリフは額に浮かんだ汗を拭うとロカに手をあげる。
「よお」
「どうしたんだ? 砂漠での用事は終わったのか」
「途中で邪魔されてな。しばらくあそこには近寄れねえな」
「魔物でもいたのか?」
「まあそんなとこだ」
邪魔されたと言う割にマトリフは機嫌が良さそうだった。ロカはマトリフの手が握られていると気付く。
「何持ってんだ?」
「ああ、コレか」
マトリフは握りしめた手をそっと開く。そこには桃色の花びらがあった。それはガンガディアの服についていたもので、マトリフはそれをルーラを唱える直前に取っていた。
ガンガディアは花畑でも通ってきたのかとマトリフはつい笑みを浮かべる。
「オレの宝物」
マトリフはその花びらに呪文をかけた。その花びらはいつまでも萎れることはなく、マトリフの魔導書に挟まる栞となった。