愛なんて「少しは片付けたまえ大魔道士」
ガンガディアはマトリフの寝室を見ながら言った。マトリフの寝室は雑然としており、本も酒瓶も散乱している。
「面倒臭え」
マトリフはベッドに寝転んだまま本のページをめくっている。素晴らしい知能を持っているマトリフだが、日常生活における几帳面さは持ち合わせていないようだった。
だがガンガディアは物が散らかっているのは落ち着かない性質だった。ガンガディアは身を屈めると落ちている物を拾い始める。
ガンガディアがこの洞窟に居着いてまだ数日。行く場所がないとマトリフに言ったら、じゃあオレのとこに来いと言われた。少々狭いが身を隠すには適している。
ガンガディアはマトリフと寝起きを共にするようになって気付いたことがある。それはマトリフが日常生活の雑事を疎かにしがちということだ。だが不思議とその事でマトリフに憧れる気持ちが損なわれるということはなかった。
ガンガディアは落ちた本を拾いながら、その表紙を見て顔を顰める。その本は知性とはまるで逆の内容であることが題名から察せられたからだ。
マトリフと暮らしてもう一つ知ったことがある。マトリフは女の裸が好きだということだ。はち切れんばかりの乳房と臀部、さらに引き締まった腹部などが、マトリフの好みのようだった。それらを本で眺めているときのマトリフの嬉しそうな顔を見ていると、ガンガディアは自分の心が深く沈んでいくのがわかった。
「少しは片付けないと。あなたの大事な物なのだろう」
ガンガディアは言いながら猥褻な本をまとめてベッド横の机へと積んだ。マトリフからは生返事が返ってくる。
ガンガディアは寝室を出た。そしてどうしようもなく自分が惨めに思えた。マトリフのことが好きだが、自分はマトリフから好かれる存在ではないからだ。
「……これは努力ではどうにもならないな」
せめて変化呪文でも覚えてみようかとも思ったが、それが一層自分の憐れさを助長するように思えて、ガンガディアはひっそりと息を詰めた。