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    秋月水樹

    @hakoniwasiki

    特殊なものつらつら。

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    秋月水樹

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    10年後ユマハラのパジャマ事情。
    ※かっこいいユはいません。
    ※ハラさんの寝間着が芋ジャー。

    #ユマハラ

    そしてサイレンは鳴り響く。枕を持って上目遣いに見遣ればハララさんは少し黙ったあと
    「……一時間三万」
    と答えたので、瞬時に頷く。
    一緒に寝るのに一時間につき三万、安いものだ。
    下心は少しあったが、純粋にハララさんと枕を並べて寝てみたかったというのもある。
    着替えるから待っていろと部屋に入っていくので、廊下で座って待つ。
    冬のせいか、冷たい廊下の壁が体温を奪っていく気がしてボクはソワソワとする。
    勇気をだして良かった、と枕を持ち直せば「入っていいぞ」と声がした。
    「お、お邪魔しま……」
    緊張しながら扉を開け、ボクは目を開く。
    殺風景というよりはシンプルな部屋、片隅に置かれたベッドは柔らかさを重視したと言っていたのを思い出す。
    「どうした?」
    柔らかなベッドの上に座って、ハララさんがこちらを見つめる。
    ふかふかとした布団に、藍色の生地。
    「……ジャージ」
    「あぁ。学生の頃に着ていたものだ。
    買い替えたのが二年生の冬くらいだったから、まだそんなに使ってなかったから着ているんだ」
    部屋着は普通のシャツを着ているので、寝る時も同じような服装だと思っていた。
    しかし今目の前で寛いでいるハララさんは、藍色のジャージを着ている。
    元々は体操着だったそれは胸のところに白い糸でハララさんの名前が刺繍されていた。
    「それがどうかしたか?」
    寝るんだろう、と布団を捲って寝転がる。
    「それとも、ジャージでは嫌か?」
    くすくすとハララさんはすごく意地悪そうに笑う。
    「いえ、ハララさんはなんでも似合うと思うんですが……」
    なんでも似合う、それは世辞でもなんでもない。
    けれど。
    普通のシルクのパジャマとか。
    ふわふわのパイル生地のとか。
    もうなんなら、シャツ一枚でも。
    「……ハララさん、今度パジャマを買ってくるんで良かったら「おやすみ」」
    ばさっ、ベッドに横たわったハララさんの姿がふかふかの布団によって隠される。
    しかしベッドの真ん中で寝ているせいか、入る隙間がない。
    辛うじて滑り込む隙間はあるが、無理をする体勢だ。
    「ボクは何処で寝れば……?」
    「そこの床なら空いているぞ」
    カチャッ、眼鏡をサイドボードに置く手だけが布団の隙間から出てくる。
    一緒に寝たいと言ったのだが、一緒の空間で寝たいと思われたのだろうか。
    「あの、一緒の布団で寝たいです」
    返事がない。音を立てないようにゆっくりと回り込んで布団を少し捲れば、ふかふかの布団の中で丸まって目を閉じている。
    「え、は、ハララさん」
    ボクも入れてください、なんて言えるはずもなく。
    大きな猫がベッドを占領している、いや、元々ハララさんのベッドを二人掛けにはしていない。
    少々大き目の、シングルベッドなのだから仕方がない。
    「おやすみなさい」
    眠ってしまったハララさんの頭を撫でて、ボクは無理にでもと背中側に回って中に入る。
    落ちないようにしなくては、目を閉じながらそう考えていると「落ちるだろう」と布団の隙間から手が伸びてボクを抱きしめるように包んだ。
    起きて、と言おうとしたのだが「今日は寒いんだ」と目を閉じたまま答える。
    「……ボクも、寒いと思っていました」
    きゅっと背中に手を回せば、温かな体温が伝わってくる。
    心臓の鼓動が速いのは、どちらの鼓動だろうか。
    「温かいですね」
    なにも答えてくれなくても、ボクを抱きしめる手が少しだけ力が籠められるのでそれでわかる。
    「おやすみなさい、ハララさん」
    再度そう言えば、小さな声で「おやすみ」と言ってくれたのでボクも同じように目を閉じた。
    翌朝、添い寝は別料金だと言われて三十万を請求されたボクは「……また借金が増えた」と手帳に金額を書き込んだ。



    朝から頭を使うことはしたくない。
    昨日依頼から帰ってきたばかりで、今日はゆっくり出来ると思っていた日は特にそう思う。
    普段しない二度寝も、目を開けるまでは考えていたはずなのに、寝返りを打とうとした僕を阻んだ胸板。
    「おはよう御座います、ハララさん」
    笑顔で爽やかに答えるユーマに「どうして僕の部屋に?」と聞けば「ハララさんが帰ってきてるのが嬉しくて」と額にキスをされた。
    「……服」
    寝る前に着たはずのジャージは何時の間にかモコモコとした白いパイル地のものに変えられている。
    「この前買ったんですけど、やっぱりハララさんに似合いますね」
    起き上がれば自分の首の下に腕を敷いていたのか、ユーマの腕が枕を遮っていた。
    「部屋に勝手に入るなと、言ったはずだが?」サイドボードに手を伸ばせば「たまには一緒に寝たくて」と眼鏡を僕の顔にかけ、顔にかかった髪の毛に手を差し入れて後ろに流す。
    鮮明に映るユーマの姿にまさかとパジャマを見つめれば「そうです、お揃いです」と誇らしげに言い、見せびらかすように生地に手を添えた。
    「しかも、なんとですね」
    拳を握り締め、震える僕の頭の後ろに手をやる。
    「こうすると」
    頭になにかが被せられ、それがパジャマに取り付けられたフードであることが分かった瞬間、全てを悟る。
    「可愛い猫になりますヴンッ!!」
    鏡を見せられた瞬間、僕は鏡ごとユーマの顔を叩いた。
    床に鏡と一緒にユーマが転がり落ちる、フードを下ろしてボタンを外し、パジャマを脱いだ。
    上半身のパジャマをユーマに投げつければ「え、ちょっと待ってください!今からですか!?」と顔を隠しながら言われるが答えずに下も脱ぐ。
    流石にパンツまでは変えられていないことに安心しながら、部屋の隅のクローゼットを開けた。
    「僕のジャージはどうした」
    一週間前までは寝る時用のジャージが置かれていたはずなのに、ふわふわのパジャマに変えられていた。
    「ただ今洗濯中です」
    「……昨日まで僕は依頼でいなかったのに、なんで洗濯をしているんだ?」
    僕の言葉にユーマが一瞬黙って、立ち上がる。
    そして僕の手をとり、キスをした。
    しかし、そんなので騙せられるわけがないことをわかっている筈だ。
    「ユーマ?」
    冷ややかな瞳で見つめていると「風邪、引いちゃいますよ」と先程投げつけたパジャマを僕の肩に羽織らせた。
    素肌の上から羽織っているのにチクチクもしなければまるで羽毛布団の中に包まっているくらいの温かさ。
    「すごくいいパジャマらしいんで、着心地がいいですね」
    普段の僕なら同意していたかもしれないが、「僕のジャージ」と近くにあったシャツを着ながらそう言えばユーマはにこっと微笑んで、ゆっくりと床に正座をした。
    「……寂しくて、つい、その」
    そこから先の言葉を聞いて、僕は頷いてユーマの肩に手を置く。
    「そうか、寂しかったか」
    僕の声にユーマが嬉しそうに顔を上げたが、僕の顔を見た瞬間笑みを引き攣らせた。
    「ぼ、ボクのパジャマも使っていいんで!!」
    一生使わない、僕はそう呟いて「せめて!せめてもう一回着てから!!」と叫んでいるユーマを引きずりながら今度カナイ区の野良猫たちの住処に持って行ってやろうとリビングに向かった。

    (了)
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