あらすじ:アマテラス社が作った10年後の自分と入れ替えが出来るバズーカの弾を当たる前に蹴ったハララが10年後の自分と入れ替わったら、子供を連れてきた。
「お、お久しぶりです大人ハララさん……」
子供の手を握って呆然としているハララさんに恐る恐る声をかければゆっくりと此方を向き、やがて会いたくなかったと言わんばかりに溜息を吐かれた。
「……この時の僕はそんなに間抜けだったか?
こんな、何回も過去に帰りたくないんだ」
子供がじいっとボクを見上げている。
歳は五歳くらいだろうか、ボクを見つめる大きな目が可愛かった。
「えっと、もしかしてその子は」
ボクとの、と恥ずかしくなって言葉が窄めば「違う」と即答された。
そんなに早くに答えなくても、と苦い顔をしていると「依頼人の子供だ。トイレ行くから一時的に預かった瞬間これだ」とハララさんも苦い顔をした。
「依頼が遂行できなかったら、過去の自分はどうしてくれる……」
「い、いや。ハララさんは今回蹴って弾こうとしたんですけど当たった瞬間が悪かっただけで「おにーちゃん?」」
なんとかハララさんの誤解を解こうとして言葉を並べていると、突如手を掴まれた。
子供の小さな手が、ボクの手を引く。
「ん?どうしたの?」
目線を合わせるため屈むと「お兄ちゃん、きょうかいの人?」と聴かれた。
「きょうかい……、あぁ、教会かな」
違うよ、と首を振る。
確かに教会のシスターには未だにコキ使われているけれど、教会の一人ではない。
すると男の子はちょっと迷ったように考えたが、「あのね」とボクを見つめた。
ハララさんは事務所に置いてあった紙に、過去の自分への借用書を書き始めている。
「あのね、お母さんがね。
昔教会の人に助けてもらったって言ってた」
ピンク色の頬が、更に色を帯びる。
「あの時結婚を止めてくれなかったら、僕は産まれなかったんだって。ずっとお礼がしたかったって」
思い返すのは、ギンマ地区のあの女性。
父が婚約破棄を聞いてくれないと言って、解決したあの悩み相談。
「依頼人からその子の言う人物を探してほしいと頼まれた。
だが、カナイ区にはそんな人物が見当たらないんだ」
まさかクギ男か?と言うので「ハララさん」と声をかける。
「……未来のボクに、この子と、母親を会わせてあげてください。
きっと、喜ぶと思います」
最後の方は聞こえただろうか、「は?」と言ってハララさんとその子供が消えた。
消えたと言うより、戻ったが正しいだろう。
ずっと自分はこれで正しいのかと思っていた。
あの時説得はしたが、もしかしたら無意味だったのかもしれないと。
「……なんだ、この借用書は」
帰ってきたハララさんは不機嫌そうに机の借用書を見つめたので「それはもう、必要ないかもしれません」と伝える。
もうすぐ、未来のハララさんの依頼は完遂されるだろうから。
「え、カナイ区の教会ですか?
たまに悩み相談とか聞きに行ってましたよ」
懐かしいなぁ、と楽しげに話す目の前の男。
「……父親に婚約破棄を伝えに行ったことは?」
「ありました!!
なんで知ってグッ!!!」
鳩尾を蹴れば床に滑り込むように倒れた。
「え、だ、大丈夫ですか!?」
先程まで涙目だった依頼人の母親が僕とユーマを交互に見る。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ……っ」
ぷるぷる震えながらお腹を抑えるので、「これが探し人で本当にあっているのなら、依頼料は指定された口座に振り込んどいてほしい」と甘い苺味の飴を噛み砕いた。
了。