「今は我慢してくれ」🐉ヒカテメちゃぷちゃぷと心地よい温度の水に包まれ、微睡んでいくような心持ちだ。ふわ、とあたりは湯気で白んでいる。
「あの……ヒカリ、そんなにもくっつかれるととても恥ずかしいのですが……」
広い広い、ヒカリの特別な湯殿。私はヒカリの腕に抱かれ、これ以上ないほどに密着されて湯に浸かっている。
「そなたを護る加護のためのものなのだ」
我慢してくれ、と耳元を喰まれる。この湯は神の気に満ちたものらしく、まだ人の身である私には刺激が強すぎるものらしい。
そのため、こうしてヒカリに触れていることでその力を中和しているという。
この湯に浸かり、ヒカリは私を護る“加護”を授けてくれている。湯に浸かることで全身に行き渡り、加護を私に浸透しやすくなるというわけで。こうして、定期的に湯殿で加護を授ける一種の儀式を行う。
「いつも説明しているだろう? 慣れてくれ」
「慣れろ、と言われても……」
私はヒカリの加護を余さず受けるために、一糸まとわぬ生まれたまんまの姿であるというのにヒカリは薄い白い着物を一枚着ている。曰く、身体を清めるために湯に浸かっているわけではないので線引だとかなんとか。
よく分からないが、神の中でも儀式的なことして一定の規則があるのだろう。
着物はすっかり濡れて肌に張り付いて、それはそれで色気を醸し出していて、そっと目を逸らす。
ちゃぷちゃぷと。ヒカリの腕の中で湯の中を漂う。彼が手で湯を掬い、頭や髪の先に湯をかけて何事か呪いを唱える。
ヒカリの伴侶になる前にも何度か加護を授かったことはあるがせいぜい額を撫でられたり、盥で汲んだ水をかけられたりしたぐらいだ。着物一枚での儀式だったので、裸でもなかった。
「口を開けてくれ」
「ん…」
ヒカリの正面に立つ。顎をそっとあげられ、言われるがままに小さな口を開く。目を閉じれば、ヒカリの熱い唇が私の唇を塞ぐ。小さく開いた口元に、舌先がねじ込まれていく。
「あぅっ、…ンッ…」
ぐちゅり、くちゅりと。粘膜が触れ合う水音が身体中に響く。口内を、ヒカリの舌で蹂躙されていく。ヒカリと口づけを交わすといつもこうなってしまう。頭の先から爪先まで、身体がびりびり痺れていく心地で、頭が茹でるようだ。
「あ、ふっ……んっ……」
孕む熱がどんどんと高まり、なにも考えられなくなる。甘くて、気持ちが良くて幸せなのに、気持ちがよすぎるのが怖い。
息ができない。
ようやく唇が離れていく。
「そなたはいつまで経っても息継ぎが下手だな」
目を細めて、ヒカリが笑う。唇から零れ落ちる唾液を、指先ですくって口元へと運ばれる。
「すべて、飲み干せ」
口の中にいっぱいになっている、ヒカリのもの。与えられた彼の唾液をごくりと飲み下す。
「いいこだ」
曰く、ヒカリの体液を摂取するのが一番効率がよい神の力の馴染ませ方らしい。
くたりと力が抜けて私は、ヒカリにもたれかかる。そんな私をいともたやすく抱きとめて、ヒカリはそっと額へと口づけを落とす。
額から、体の中から、全身へと温かななにかが巡っていくように感じる。これが加護なのだろう。
全身がヒカリでいっぱいになって満たされていく。
受け止められた体はそのままヒカリに抱えられ、湯の中を移動していく。ここは浴槽というより、もはや温泉に近い。
足元だけ湯に浸かるぐらいの浅いところ。端に座らされる。加護の儀式の影響が力がうまく入らず、くたりとなってしまう。
「……っ…ん」
頬を滑る掌。耳元に熱い吐息がかかり、柔く耳たぶを喰まれる。
「ふっ、……」
そのまま、舌がおりてくる。首筋を滑り、胸元を舐っていく。
「あッ……」
ちゅ、と。強くあちこち吸い付かれて、ぴりとした痛みとない交ぜになった感覚があちらこちらに散らばっていく。
「はぅ……」
臍あたりを舌で舐められて、くすぐったくてたまらない。
「……っ、んッ……」
ぴちゃ、ぴちゃ。足先を恭しく持ち上げられたかと思えば、そのまま口に含まれる。柔く噛む刺激に、足先までふやけていってしまいそうだ。
「……ひんっ……。あ、あの、ヒカリ……これは、加護に必要なことなのですか?」
持ち上げられた足の付け根当たりにヒカリの歯が立てられ、唇が吸い付く。流石に裸でこの格好は恥ずかしい。いつまで経っても終わらない接触に思わず尋ねる。
「いいや。俺がしたいからしてるだけだ」
「えっ…? そ、ちょっ、まっ……! ッ……」
「安心しろ。右だけでなく、左にもちゃあんと痕をつけてやろう」
「そ、そういう問題じゃない…っ! ひゃっ…ッ…!」
慌てて手で押さえようとしても無駄だった。私の足の付け根の両方に強くヒカリは吸い付く。ちゅ、とした音と小さな痛みが走る。
ようやく離されたあと、力が抜けてしまう。
「そなたの白い肌が、薄桃色に色づいていて、そこに咲く紅が殊更映えて美しいな。俺のものである、という印をしっかり刻み付けておかねば、な」
俺以外の他の誰にも手を出されないようにと。ひどく楽し気に、私を見下ろしながらうっそうと彼が笑うのだ。
「あなたほどの力のある神は他にいないと思うのですが……」
こんな印をつけなくとも、きっと私に手を出せるのはヒカリ以外にいないはずだ。自身を見下ろせばあちらこちらに、彼につけられた紅い痕がある。こんなにも明るいところで見ることはあまりないので、少しばかり恥ずかしい。
「許せ」
ちゅう、とまた吸い付かれれれば、胸元にまたひとつ紅い痕が増える。ぐったりと力の抜けた身体をヒカリが持ち上げる。彼に抱かれて、腕のなかでそっと彼に凭れかかる。
「狡い……」
私ばっかり、こんな痕をつけられて。ヒカリにもつけてみたい。分不相応な、大層なことかもしれないけれどもヒカリも私のものなのだから……。
「テメノス、ほんとうに…そなたは……」
ヒカリは目を細めて、そっと自身の着物の合わせ目を開ける。
「そなたになら、よいぞ」
一部、露わになったヒカリの鎖骨あたりに手を這わせる。ゆっくりと顔を近づける。
「強く吸い付けば、ちゃんと痕がつくから…そう。上手だ」
「……ん」
肌に唇を吸い付かせ、ちゅぽんと離せばうっすらと赤い痕がついていた。嬉しくなって、指でそうっとなぞる。傷ひとつついていない神の肌についたその印。
「ふふ、上手だな」
ヒカリが微笑みながら指先で頬をなぞりながら褒めてくれる。
その指先へ、かぷりと噛みつく。
「……テメノスっ!?」
「私だって、そういうことを……あなたとできれば…と……」
「そなたは……いじらしくて、どこまで愛らしいのだ……」
「はわ……」
お返しとばかりに耳元に歯を立てられ、低い声が耳元でささやく。
「そなたがその気だと言うのなら……俺も手加減はしてやれんぞ」
「ひゃっ…ッ!…あ、っ……ア……」
耳に生暖かい感触、犯されていく。頭が熱くなって、下腹部にもどんどんと熱が孕む。
ぐちゅ、とあふれ出る蜜を指先で絡めとられ、舌先でそれを舐めとったヒカリの口元が弧を描く。
「そんな顔をするな」
一体、どんな顔を私はしているのだというのだろうか。ヒカリが欲しくてたまらないというあさましい欲に満ちた顔だろう。
「力に満ちた、この湯では……。ここで致せば、そなたを孕ませることが容易にできてしまう」
「あ、んっ……」
かり、と爪先で腹がひっかかれる。その小さな刺激にすら甘い声が漏れてしまう。
「そなたに負担をかけぬわけには……。いかんな。そなたを前にすると自制が効かぬ」
俺はこうやって衣を纏っているというのに、とヒカリが首を振る。
「閨まで、待ってくれ」
しゅるり、と。ヒカリの力で編まれたであろう衣が私の身体を包む。
「そなたの身体を休めよう。そうだ、氷を削って、蜜をかけたものでも用意しようか」
「よいですね」
ふふ、と微笑むと頬を撫ぜられる。
「その後は、閨にいこうか」
「えぇ」
たくさん、愛してくださいとつぶやけば「我が伴侶は、本当に愛らしいな」とヒカリが唇を合わせてきたので存分に受け入れる。
「そんな顔をしないでください」
「なぜだ?」
「閨まで、我慢できなくなってしまいます」
その慈愛に満ち満ちた顔を知っているのは、私ただひとりだろう。さらに深い深い口づけを贈られながら「今はこれで我慢してくれ」とこくりとヒカリに与えられたものを飲み下しながら私はゆっくりと頷いた。