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    狭山くん

    @sunny_sayama

    腐海出身一次創作国雑食県現代日常郡死ネタ村カタルシス地区在住で年下攻の星に生まれたタイプの人間。だいたい何でも美味しく食べる文字書きです。

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    狭山くん

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    2022-06-10/空閑汐♂デイリー、遂に2000字超えてて800字チャレンジとは……?ってなってます。
    しかも空閑が出て来ない汐見独白回である。篠原は空気を読む男だよ!

    ##空閑汐BL
    ##静かな海
    ##デイリー
    #BL

    空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:10 時折足を向けるその場所で篠原の視界に現れたのは、汐見の姿であった。
    「珍しいな、こんな所で」
    「お前こそ」
     心底珍しいものを見るような視線を汐見に向ければ、汐見は鬱陶しそうに片手をひらりと振りながらも篠原へと言葉を返す。汐見が珍しい訳ではない、部活で飽きる程に顔を合わせているから。珍しかったのは、彼が一人で大学部に併設された図書館に居る事だった。
     高等部と大学部――そして学生と教員たちの宿舎や食堂だのコンビニだのが併設された広大な敷地からなるひとつの町のようなこの場所で、高等部の生徒が大学部の図書館に揃うのは珍しい事だった。課題をこなす為の文献をあたるのであれば高等部でも事足りる。
     篠原は大学部に在籍する学生との逢瀬の為に時折この場所を訪れていたが、篠原が入学してから一年半を過ぎた今までの間、汐見を含めた高等部の生徒と出会うという事はなかったのだ。
    「俺はちょっとした野暮用。お前が一人なの、珍しすぎるんだよ」
     汐見の隣――もしくは後ろには、大体空閑がセットでついてくる。少人数制である各専門課程はひとコースにつきひとクラス、そうなればパイロットコースに所属する彼らは寮も同室、クラスも同じで極め付けに部活まで同じと四六時中一緒に居るのだ。
     空閑の影を探して周囲を見回した篠原に「ヒロミなら居ないぞ」と溜息混じりに肩を竦めた汐見は手元の文庫本をパタリと閉じる。表紙に書かれていたのはブラッドベリの名。
    「汐見、小説とか読むんだな」
    「まぁな」
     どちらかと言えば学術書を読んでるイメージが強い汐見にそんな感想を口から漏らした篠原へ、彼は小さく笑って手元の文庫本を隣の席に置いていた鞄へと仕舞い込んで。
    「ていうか、お前の近くに空閑が居ないって落ち着かないな。喧嘩でもしたのか?」
    「いや……」
     いつも淡々とではあるがはっきりとした物言いをする汐見が、困ったように笑みを浮かべながら言葉を探すように口籠る。そんな彼の反応に思わず首を傾げた篠原は、汐見の向かい側へと腰を下ろした。
    「なんか……何なんだろうな、ずっとヒロミと一緒に居るとダメになりそうな気がしたんだ」
     どことなく覇気のない口振りで零された汐見の言葉に、篠原は再び首を傾げる。目の前の男はパイロットコースの主席である。入学順位こそ空閑が主席だったようだが、その後試験の度に他の生徒を尻目に一位二位争いをしているのが汐見と空閑のコンビであった。
     肉体関係は間違いなく発生しているのだろうが、二人揃って成績は良好かつ互いをライバルと認め合い切磋琢磨している関係のどこに駄目になる要素があるのだろうか。
     きっと汐見は誰かにこの感情を吐露してしまいたかったのだろう、篠原が口を開かずとも一人ポツポツと懺悔のような独白をこぼし続けていく。
    「俺は一人で、どこまでも行けるようになりたかったんだ。だからこの学校に来た。一人で生きていく為に、誰に寄っかかる事がないようにって」
     その言葉に小さな違和感を覚えながらも、篠原は言葉を紡ぐ事はせず静かに汐見の言葉を待つ。不器用な友人の考えが、少しだけ見えた気がした。
    「だけど、ヒロミと居ると……居心地が良いんだ。居心地が良すぎて――俺はあいつに寄っかかってるんじゃないかって、一人で居る事ができなくなるんじゃないか、怖くなって――だから、一人になりたくなった。大丈夫だって思えるように」
     その言葉に篠原は頷いて見せると同時に、その違和感に気が付いた。こいつら、付き合ってるんじゃないのかよ。思わず口から飛び出そうだったツッコミは喉の奥に飲み込んで、その代わりに汐見に気付かれないように小さな嘆息を漏らす。あれだけ目の前でいちゃついておいて、そのいちゃついている男たちの片割れは一人でどこまでも行く事を是としている。
     空閑の真意を尋ねた事はないが、汐見が一人でどこでも行くなんて口にしてもその後ろをニコニコとついて行きそうだ。そしてその事に恐らく汐見は全く気付いていない。今ここで叫び声を上げながら頭を掻きむしってしまいたい衝動に襲われながらも、大学部の図書館という立地を思い出した篠原は必死でその衝動を思考の外へと押しやって――今度こそ大きな溜め息を吐き出した。
    「まぁお前、元々一人が好きそうだったもんな」
    「一人が好きというか、一人でいる方が楽だったというか」
     篠原の言葉に汐見は相変わらずのどことなく覇気がない言葉を漏らす。一年半前から考えると、この男も丸くなったもんだと篠原は思わず感心してしまっていた。人里に降りてきた野生動物のようだった汐見は、未だに人付き合いが絶望的に不器用ではあるものの篠原やフェルマー、言い合いこそするものの高師とだって友人の距離感で接していて。そして汐見を柔く丸くした張本人である空閑はきっと、友人のそれよりも汐見と近い距離に存在している筈なのだ。
     汐見お前さ、それは好きって事なんじゃないか?
     思わず口から漏れそうになる言葉は飲み込んで――きっとこれは篠原が言うべき言葉ではない。
    「ダメになっちまえば良いだろ。寄りかかるじゃなくて――頼るって言うんだ、そういうのはさ」
     だからこそ、篠原は少しだけ汐見の背中を押すような言葉を選んで声に乗せる。納得はしていないという顔で、篠原をじっと見つめていた汐見はそれでも小さく頷いて――それがまた、どこか寄る辺のない迷子の子供のようだった。そんな汐見の表情に、篠原は口元だけで笑みを浮かべて肩を竦めながらお節介な言葉を紡ぐのだ。
    「まぁ、どうせあと一年半は嫌でもお前ら一緒なんだろうからさ。ちょっと俺の言った事考えてみりゃ良いじゃん」
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