空閑汐♂デイリー【Memories】07 長期休みを終えた秋の空は高い。
「天高く馬肥ゆる秋、正に秋高気爽だな」
そう口にして笑う汐見の隣で空閑も釣られて笑みを浮かべていた。三年次を修了し、ようやくこの学院でも四年目の授業が始まる。
「それにしても、この休みも楽しかったね」
「だな」
空閑と汐見は揃って日本には帰らず、同じく帰省をしなかった篠原と共にフェルマーの家で世話になっていた。ドイツ国内だけではなく隣国まで足を伸ばし観光に勤しんだ日々を思い返した空閑は小さく笑う。
「途中で高師が合流したのには笑ったよな」
「意外と付き合いいいんだよね」
空閑達は後二年あるが、フェルマーを含めた他の三人は今年が最終学年だ。就職や卒論等で忙しくなる前に思い出作りをしようというのが今回の観光三昧となった理由の最たるもので。それを知ってか知らずか、丁度旅程の最後に入れていたオクトーバーフェスには早めに帰省を切り上げた高師も合流していたのだ。
空閑からしてみれば狂気の祭典であるオクトーバーフェスも、アルコールに滅法強い汐見やドイツ人らしくある程度ビールも嗜むフェルマーやそこそこ飲める残りの二人にとってはいい思い出になったらしい。
何度も掲げられ飲み干されていくジョッキを思い出して思わず顔を顰めていた空閑に、汐見はカラカラと笑う。
「ま、ヒロミにとってはオクトーバーフェスも悪夢の祭典か」
「楽しく酔えるまでは良いけど、多分一リットルも飲んだら俺すぐに潰れるよ……? 料理は美味しかったけどねぇ」
「一リットルジョッキしか無いのには恐れ入ったな。まぁ飲むんだが」
「アマネ、あの時何杯飲んだの?」
「覚えてないな……五杯は飲んだと思うが」
「それ最低でも五リットル飲んでるって分かってる?」
それでも顔色ひとつ変えてはいなかったな、と思い出しながらため息ひとつ吐き出した空閑に「ビールなんて結局美味い水だろ」と言い訳のような言葉が返ってきた。
「来年はお前と二人か」
「しかも来年は大気圏外の実地だもんね」
四年間を地球で過ごし、最後の一年は大気圏外での訓練。それが航宙士学院のカリキュラムで。今年一年で取得しておきたいライセンスを指折り数える空閑に汐見は思い出したように、ポツリとつぶやくような声を漏らす。
「来年、上手いこと休み作れたらオーベルト観光行かないか?」
オーベルトは、人類が初めて月に降り立った地に作られた人類初の月面都市の名だった。その場所は宇宙に憧れる者ならば、一度は訪れたいと願う場所で。汐見の唇から溢れたその甘美な響きに空閑は一二もなく頷いていた。
「良いね! それじゃぁ今年も張り切って頑張らなきゃ」
「だな、ここでドロップアウトなんてしてたまるかよ」
四年に充てられた教室に向かいながら、不敵な笑みを浮かべる汐見に空閑も笑う。これから先も汐見との楽しい日々が続く事を嬉しく思いながら。