楽進は分かりやすい。
戦場での鬼気迫る表情もそうだけど、キョロキョロ周りを見回したり、美味いもの幸せそうに頬張ったり、何か思い詰めることがあって神妙な顔つきになったり、笑ったり、落ち込んだり、悲しんだり、喜んだり。
くるくる、ころころ表情が変わる。
本人はその自覚がないのがまた楽進らしい。
思い耽ってる顔してる時に、なんかあったかって声かけたら心底驚いて俺をまん丸い目で見上げてきた。
何故分かったのですか、と本気で聞いてきた楽進に、俺は答えた。
「楽進の考えてることなら目見れば何でも分かるから、俺」
それから、楽進は俺と目をあんまり合わせてくれなくなった。
じっと見たらゆっくり逸らされ、覗き込むとふいと避けられる。
「楽進、いい加減目合わせてくんねぇとへこむんだけど、俺」
あんまりにも楽進が逃げるから、回廊で見つけたときにすぐ腕掴んでとっ捕まえて、それでも逃げようとしたから壁際に追い詰めて、逃げらんないように両手を壁につけて楽進を囲う。
楽進は「あの」だの「李典殿…」だの「近いです……」だの、下に顔向けてもごもご言うばかり。目なんかさっぱり合わせてくれない。
「俺なんか楽進にしたか?」
何かしたなら、謝る他無い。楽進に嫌われたら、俺は生きていけない。息もできない。正直、今目が合わないだけでも、苦しくてたまらない。
そんな俺の情けない思いが伝わったのか、ようやく楽進が顔を上げた。
あぁ、やっぱ。好きだ。
「い、以前、李典殿は、目を見れば私の考えていることが分かるとおっしゃられたと思いますが」
楽進がぽつぽつと語り始める。
それは俺の発言を示したもの。
あぁ、言った。事実だから。
「言ったけど」
それが、と問う前に楽進の口が開く。
「それでは、私が李典殿をお慕いしていることも、いつか見透かされてしまうのではないかと、思いまして」
楽進の言葉。
驚いた。心底、驚いた。
「それで、目合わせて、くんなかったのか?」
楽進は俯いたまま頷く。
いや、知ってた。楽進が俺のことを好いていてくれてることは、知ってた。
「それでかぁ……」
自分の発言が自分の首を絞めてたってことに今更気がついた俺は項垂れて思わずため息をつく。
「李典殿……?」
俺の様子を窺う楽進。
「あのな、楽進」
「は、はい」
「それは楽進の目見る前から、知ってた」
俺の言葉に、楽進ははっと息を呑む。
「なんと……!既にご存知だったのですか!」
心底驚いてる楽進の顔に、可愛いやら何やら複雑に感情が入り交じる。
ため息が漏れそうになったけど飲み込んで。
「んで、俺も楽進の事が好き」
ぐ、と顔を近づけると楽進の顔がすぐ真っ赤になった。
「私達は、両想いだったという事ですか……!?」
あぁ、気が付かないのは当人ばかり。
楽進は心底本気で驚いてる。
俺は、そんな楽進に惚れた。
今だって、これからだって。
「あ、あの、李典殿」
「ん?」
「やはり、その、顔が近いと……」
両手で口を押さえたままふるふると首を横に振る楽進。
久方ぶりにあった視線なんか見なくても、照れてて、でも嬉しいって想ってくれてることなんか直ぐ分かる。
口を隠す手の甲に口付けると、楽進は目を見開いたまんま固まる。
その姿がどうにもたまらなくて、俺は固まったままの楽進を笑いながら抱きしめた。