素敵な墓場で暮らしましょ墓はただの石だ。死体は肉塊だ。魂はお伽噺だ。
けれど、心は。まだここにある。あるはずだ。
――引用:回樹 斜線堂有紀
「――嗚呼。
「ようやく、目が覚めたのか。
「自分の名前はわかるか?私のことは?
「――そう、か。……いや、いい。いいんだ。
「手足は動くか?目は?……なら、それで十分だ。
「君はリーだ。君の名前はリー。……そう、わかるね。
「私かい?
「……そうだね。私のことは――
「――博士。いい加減起きてくださいよ」
窓を開けると、朝の大気が花の香りと冬の名残を一緒くたにして部屋の中へと運び込む。羽獣たちは空高くで待っていると言うのに、この部屋の主人ときたら一枚きりの毛布をより深く被り直し、夜の気配を掴んで離さないとでも言うかのように身を丸めていた。リーは深くため息をつき、もうすっかり朝の行事に組み込まれてしまった行動、すなわち博士から毛布を引き剥がすという行為に移った。ぎゃっという悲鳴をあげて、博士は闇の中でのみ生存を許される生き物のように今度は両手でその目を覆った。諦めずに、リーはその体を揺さぶる。
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