Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    はるち

    好きなものを好きなように

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐉 🍵 🎩 📚
    POIPOI 171

    はるち

    ☆quiet follow

    ミニマリストの会話1を受けて。
    すべての役者が去った後で、この大地に残るものとは。

    #鯉博
    leiBo

    龍の鱗が最後に残る「ロドスの船殻だけど、次に整備する時、もっと高耐食性の素材に替えるのがお勧めだよ。理由? すべてが終わって消え去る時、オレもアンタも影も形もなくなるからだよ。残るのは、この船の骨だけだ。コイツこそが永遠なんだ。そして、オレたちの証明になるんだ」
     
     エンジニア部の弛まぬ努力により、ロドス本艦はいつでもどこかしらで増改築が行われている。しかし外殻に手を入れているところを見るのは初めてではなかろうか、とリーは慌ただしく通り過ぎる作業員達の合間を縫って歩きながら思った。やれペンキはどこだ炭素材はどこだと、喧嘩のような口調でやり取りをする彼らを見ているのは楽しくもあるし、時間さえあれば茶でも飲みながらいつまでも眺めていたかったが、しかし今は行くべきところがある。甲板から艦内へと入り、今ではすっかり馴染んだ廊下を歩く。いくつか階段を登り、三番目の角を右に曲がると、そこには執務室に繋がる扉がある。
    「はい、どうぞ」
     ノックもそこそこに中に入ると、ここもかすかにペンキの、あの有機溶剤独特の匂いがした。デスクで書類仕事をしていたドクターが、自分の来訪に顔を上げる。この人も、現場を見に行ったのだろう。近づくに連れて匂いが強まる。自分の表情に、ドクターは苦笑しながら上着を脱いだ。
    「一応言っておくと、君の外套にも匂いが移っているからね」
    「こりゃ参った。クリーニング代はロドスが持ってくれるんですよね?」
    「風通しの良いところに干しておけばこれくらいの匂いはすぐに飛ぶさ」
    「ならいいんですが、ね……。それより、どういう風の吹き回しですか」
     このタイミングで、突然外殻の整備を始めるのは。大きな損傷を受けたという話は聞かない。ああ、とドクターは遠い目をして、壁の方を見た。そうすることで、今まさに新しいペンキを塗られている外壁が見えるかのように。
    「最近入職したオペレーターからの提案でね。君にも紹介したいけど……」
     そこで言葉を切ったドクターは、リーへと視線を戻した。その顔を見上げて、ふっと笑みを溢した。
    「リーはちょっと背が高すぎるからなあ」
    「はい?」
    「また彼に首を傷められたら困る。最近ようやく首と機嫌が治って、設計の仕事を請け負ってくれるようになったからね」
     一体何の話だ、という視線を緩やかに受け流して、ドクターは何でもないかのように首を振り、説明を再開する。
    「彼に言われたんだ。すべてが終わって消え去る時、残るのはこの艦の骨だけだって」
    「……」
    「だから船殻をもっと高耐食性の素材に替えることを勧められてね。早速手を付けたところなんだよ」
     ドクターは書類とペンを置き、自分を見上げる。フェイスシールドを外している今、この人の顔がよく見えた。その瞳に映り込む自分の表情も。
    「これこそが――これだけが永遠なんだ。私達が確かに存在したことの、証明になるんだよ」
     謳うような口調が、幻影を惹起する。脳裏に浮かぶのは、朽ちたロドスの船殻から崩れ落ちる外壁だ。それは、死した龍から剥がれ落ちる鱗に、とてもよく似ていた。きっと冷えて、鉄臭く錆に塗れて、元はどんな色だったのかさえわからないところも。
    「……ドクター」
    「その時、君はどこにいるんだろうね?」
     君にも残せるものがあると良いんだけど、と。それ以上続く言葉に耐えられなくて、だからその人を抱き締めた。いよいよ強くなるペンキの匂いが鼻をつき、わずかながらの吐き気をもたらす。
     いつか、そんな日が訪れるとするのなら。そこには確かに永遠があるのだろう。
     けれど。形になった永遠に、一体どれほどの価値があるのか。
     ドクター、と。声に出さずに名前を呼ぶ。本当に欲しいのは、そんなものではなくて。最早それ以上褪せることもないほどに色褪せた、冷たく凍りついて固まった永遠ではなくて。
     この、いつか失われると知っている、腕に残る体温と柔らかさなのだと――。
     この人は、いつになったら。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    はるち

    DONEドクターの死後、旧人類調技術でで蘇った「ドクター」を連れて逃げ出すリー先生のお話

    ある者は星を盗み、ある者は星しか知らず、またある者は大地のどこかに星があるのだと信じていた。
    あいは方舟の中 星々が美しいのは、ここからは見えない花が、どこかで一輪咲いているからだね
     ――引用:星の王子さま/サン・テグジュペリ
     
    「あんまり遠くへ行かないでくださいよ」
     返事の代わりに片手を大きく振り返して、あの人は雪原の中へと駆けていった。雪を見るのは初めてではないが、新しい土地にはしゃいでいるのだろう。好奇心旺盛なのは相変わらずだ、とリーは息を吐いた。この身体になってからというもの、寒さには滅法弱くなった。北風に身を震わせることはないけれど、停滞した血液は体の動きを鈍らせる。とてもではないが、あの人と同じようにはしゃぐ気にはなれない。
    「随分と楽しそうね」
     背後から声をかけられる。その主には気づいていた。鉄道がイェラグに入ってから、絶えず感じていた眼差しの主だ。この土地で、彼女の視線から逃れることなど出来ず、だからこそここへやってきた。彼女であれば、今の自分達を無碍にはしないだろう。しかし、自分とは違って、この人には休息が必要だった。温かな食事と柔らかな寝床が。彼女ならばきっと、自分たちにそれを許してくれるだろう。目を瞑ってくれるだろう。運命から逃げ回る旅人が、しばし足を止めることを。
    8274

    related works

    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754

    recommended works