Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    はるち

    好きなものを好きなように

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐉 🍵 🎩 📚
    POIPOI 164

    はるち

    ☆quiet follow

    ちまき美味しいですね

    #鯉博
    leiBo

    食堂にはもち米の匂いと蒸気が満ちていた。蒸籠を総動員してフル稼働している結果がこれらしい。
    皿の上には笹の葉で包まれた正四面体がうず高く積まれている。ちまき、という炎国の伝統料理だったはずだ。我が身を嘆いて川に身を投げた政治家の遺体が魚に食べられないよう、彼を慕う人々が投げ込んだとされる料理。とはいえ多種多様多国籍のオペレーターが多く集まるこのロドスではこの節句はお祭りごとの一つとして認識されているようで、厨房はその準備に大忙しだった。
    積まれた一つに手を伸ばすと、一つだけにしておいてくださいよ、と湯気の向こうから声がかかる。見れば、彼が顔だけを向けてこちらを見ていた。手元ではちまきの成形に忙しい。
    「もち米は腹にたまりますからね。夕食が入らなくなりますよ」
    「この他にもまだごちそうがあるのか?」
    「それだけじゃあ物足りないでしょうが」
    まだ熱気の残るそれを手に取り、笹の葉を剥く。中から醤油の香りが立ち上り、遅れて空腹を自覚した。一口頬張ると、卵黄と油のまろやかさが口に広がった。なるほど、美味しいものは塩と油からできているとは良く言ったものだ。
    「美味いですか?」
    「君の作ったものは何でも」
    「褒めても何も出ませんよ」
    「何だ、デザートでも出してくれるのかと」
    彼は呆れた表情で、近くにあった布巾で手を拭いた。別の皿に盛られていた一つを手に取り、こちらへと放って寄越す。危うく取り落とすところだったが辛うじて受け止めると、彼はくつくつと喉を鳴らしていた。別に運動音痴というわけではなく、単に心の準備ができていなかっただけだと言い訳をしながら、受け取ったそれを見つめる。別段外観は、今食べているものと変わらない。
    「どうぞ」
    しかし彼に促され、新しいそれの葉を剥がす。外見は大きな差がない。化かされているようだ、と思いながら一口頬張ると。
    「……」
    「デザートですよ。どうですか?」
    もち米の中には餡が入っていた。大福――いや、いつぞやにサガがからわけてもらったおはぎ、あの感覚に近いかもしれない。しょっぱいものを予想していた口の中は、予想外の味わいと甘さに困惑していた。
    「炎国は広いんですよ。ちまきの味わいも様々でしてね。このロドスにも今ではすっかり多くの炎国人がいますから。みなさんのご要望にお応えするのは、そりゃあ大変なんですよ」
    曰く、北の方は甘いちまき、南の方はしょっぱいちまきを好むらしい。とはいえ地域を変えて移り住むものや家庭の味もあるため、出身地域だけで一概にちまきの味を決めることはできず、つまり彼はその全ての要求に応えようとしているらしい。
    「ドクターはどちらがお好きですか?」
    「……君の家ではどっちを作っているんだ?」
    さて、と彼が首を傾げる。
    「どうしてそんなことを?」
    テーブルの上に食べかけのちまきを2つ置く。確かに彼の言う通りだ。美味しく食べられるのは一つが限界だろう。甘いものもしょっぱいものも、自分にとってはどちらも等しく素晴らしい。ならば、そこに差異を与えるものがあるならば。
    「君の故郷の味を好きになりたいからね」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754

    recommended works