青い夏刑部が漕ぐ自転車の荷台に乗って、空を仰ぐ。
ウロボロスのステージに上がって演奏させて貰えるようになったのは、ついこの間。夏休みにも時間をもらって演奏している。
それでもなんだか吹きたりなくて、二人で近くの河原を目指す。
夏の昼時なんて、暑くて誰も出たがらない。
陽炎が揺れるアスファルトに影を映すのは、俺と刑部と、遠くに流れる雲だけ。人っ子一人いなくて、この暑さならそれもそうかと納得する。
頸に張り付く髪に汗が伝う。前を向いて漕ぐ刑部の背中も、シャツが汗で張り付いている。
後輪の軸に引っかけていた足が弾みで落ち、踵を潰した靴が脱げそうになった。
一瞬、五月蝿かった蝉の声が途絶えた。
通りには誰もいない。
静かで、どこか異質めいている。
まるで俺と刑部だけ夏に閉じ込められたような、二人だけの世界。
でもそんなことはなく。油の切れた自転車の回転音と再び鳴り出した蝉の声に、現実に戻された。
どこかの家から、昼のバラエティの笑い声が聞こえる。
夏の暑さにやられたのか、らしくもない考えに笑えなくて、茹った頭を刑部の背中へ預ける。
「晃、くっつくな。暑い」
すぐに来た苦情に、今度こそ笑って空を仰ぐ。遠くで大きな入道雲が、場所を変えずに見守っていた。