桜の逸話親戚のおっさんたちに聞いた小さな話。
大人の仕事をする時に、源氏名を『さくら』とつけるのはよろしくないと。
ぱっと咲いて、ぱっと散る。
要はすぐに辞めてしまうっと。
その日の迎えは大和守安定だった。
ふわふわ儚げな外見で癒やし系だが、中身は元同じ主で腐れの加州清光曰く「テンションが上がると主といい勝負」と。
大学から離れた道。桜の花がはらりはらりと舞う。桜に拐かされそうな、一枚の絵になりそうな構図。ついそこを切り取るように両手の親指と人指でフレームをつくった。
「おかえり、なにしてるのさ、主?」
呼んだわけじゃない。自然とこちらを向き照れ、はにかんだ笑顔をむける。
「まって、そのままで。今、写真とるから。ストップ」
かばんからスマホを探す私に「なにそれー?清光じゃないんだから」とけらけらと笑う。
「安定さんの尊い姿を私は写真におさめたい。おさめさせてください」
「ホント、主って変わってるよねー。早くしてね!」
スマホで写真を撮るタイミングと「ね!」が重なり、我ながらこれはいい!!満足!!という写真が取れた。
にやにやする顔を隠さす「ありがとう!いいのが取れたよ!!」と、安定の側には駆け寄る。
今日の授業は早く終わった。友人たちに花見という合コンの誘いに掴まらないように急いで来たので、時間もあるのでたまにはと安定と花見のお散歩を少しする。
「そういえばさ、主は実家を出るときに『餞よ。滅べ』って実家の庭に桜の枝を植えてたよねー。どうして?」
安定のその言葉は、幼児特有の「なんで?なんで?」に見えた。
私は高校卒業と同時に、家を、血の縁をたった。戻るところは自分が持つ本丸しかない。
「桜の花って綺麗なのに。僕らも嬉しかったら桜が舞うのに。」
つの口、首を傾げるが、私は理由を話さずニコニコとその顔を見つめる。あどけない、その顔が愛くるしくて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
安定はお気に召さないのか、声を上げて辞めてほしいと抗議する。それが楽しくて私はくすくすと笑い「せっかく、桜が綺麗なんだから眺めて帰ろ。」と。
「うちの主さまは、見掛けに寄らす古風な習わしを知ってるようだな。」
その日の夜に、まだ冷える縁側で月見をしてる私に美しい金色の菊の人から声が掛かる。
なんの事か分からず、目をまるくして、その人をじっと見てしまう。
「おや、今日は眼鏡はいいのかい?」
視力が悪いわけじゃない。常時かけてる眼鏡は審神者として自分を守るために認識阻害術具。ついでに私が苦手の顔のいい男がボヤけて見えるという時の政府お手製の眼鏡。
今はもう寝るだけなの、眼鏡はかけていない。
「月明かりだけですからね。それに御前は国宝級の美術品。またイケメンでもまたジャンルが違うのです。」
「そうか、そうか!もっと褒めてもいいんだぞ?」
したり顔の一文字則宗さんに「よ!美丈夫!」と褒め称える。向こうも楽しげにケラケラと笑うーーー。
「咲いた花なら散る覚悟を。」
「戦後中の言葉ですね。」
「虫が付きやすい」
「よく聞きますねー。葉が柔らかいから虫が食べやすいとか。」
「夕方に青いタレ目の黒髪の坊主に、庭に桜を植えちゃいけない理由って知ってる?って聞かれてなぁ。」
その場の空気が変わる。
「ご存知でしたか。」
「むしろ、僕は君がそれを知ってることに驚いてる。」
「私も学生時代の友達に教えてもらったんです。ま、迷信と思ってますけどね。ささやかな、仕返しで植えてやりました。育てるが大変って聞くで、もしかすると枯れてるかもしれませんね」
ふぁっと口を抑えてあくびをする。
軽く会話をして、おやすみの挨拶をして一文字則宗さんと別れた。
家の庭に桜を植えるのは縁起が悪い。
その家が途絶えると。