白い悪魔の独白白い悪魔の独白。(女子大生審神者)
少し前の話をしよう。己の主の話だ。
主は少々変わり者で、たびたび俺のほうが驚かされることがある。女人の中では背の高い方で、すらりとした手足、当時の学生服のブレザーにスカート姿じゃなかったら性別不明だ。君、ちゃんと食事を取ってるのかい?と心配したらたら、初期刀で近侍でもある加州清光が「二言には面倒くさいで、集中すると食べない」と。時にうっとしい、やかましい!暴れる彼女を押さえつけながら食べさせたことがあった。後日、主はそういう食事が食べれない病気を持っているとか。
なので、料理に精通してる歌仙兼定が来たときは、主よりも自分たちが「待ってました!!」と喜んだ。
彼の手の込んだ料理を食べ「あぁ、料理はこんなに美味しいだ」とほろりと涙を流したことあった。そんな顔は中性的でツリ目。短み髪もあり並ぶと薬研藤四郎とは姉弟のようだった。
いや、君たち本当は姉弟なんじゃないか?って思うほど今生の主は男気に溢れて凛々しい。
たまに学校から本丸に直接くる時に、頬に、俗に言うビンタをくらった跡。真っ赤についた手跡。
心配をする俺等に主は「男前でしょ?」得意気に笑う、傷は男の勲章らしいが、君は女性、しかも嫁入り前。はじめの頃は「報復を!」と声を上げるものもいたが「いいよ、面倒くさい。」とだけいい「しょせん、顔のいい男に騙されてる可哀想な女の八つ当たり。これで気が済むならね。いさぎよき引き受けましょ。どうせ、あと数年。」と、酷く冷たく笑っていた。
執務室に側には簡易の厨房がある。ビンタを喰らった日は、深いためいを付きながら手ぬぐいで頬を冷やしてから仕事をしていた。
実のところ、俺は、この本丸の初太刀。
短刀、脇差し、打刀とが増える中で、そろそろ太刀でもって所で俺がやってきた。
驚かすつもりが驚かされた。
主は目を丸くして、顔を真っ青にして「うそでしょ?」といい、側にはいた加州清光のしがみつく「………ねぇ、もしかして、刀剣男性って美形がおおいの?」と訪ねた。
「まー、それなりにね。」
「聞いてないんだけど!?」
「顕現するまでわからないからね…」
「えっと、君たち???」
俺が二人に手を伸ばそうとすると、主はびくりと大きく体を震わせて「無理、無理です!!」と大きく声を上げて「清光、あとは頼んだ!!」といい鍛刀場から、大きな音をたてて何処かに消えた。
「なんだ?」
そこから加州が、主は顔のいい男が苦手、嫌いと教えてもらった。なんでも知り合い男性が顔が良くて、さんざん嫌がらせを受けてきたと。そしてあのビンタの跡も、その男性に振られた女性の仕返しだとか。
そしてあの中性的姿は、自分を女性と思わせないためと。
「いや、無理だろ。」
「性格はあれなんだけど、整えると美人なんだよ主」
加州が続ける、その男が主を上手く囲い、本人がモテることを匠に隠していると。そして、都合のいい関係と。幸い、未成年とのことで体は清らからしい。
「男の風上に置けない奴だ。」
「でしょー?こじれてちゃってさ。しかも、俺や安定、短刀や穏やかそうな顔立ちのしかそばに置かないの主は。そういうわけだから、ごめんね」
加州は安定を呼んで主を近侍の交代を頼みながら、本丸の案内をしてくれてた。ここの本丸はその主の為なのか、不思議な構図をしていた。玄関は2つ。主用と刀剣男士用。
主が執務室兼私室は刀剣男士が暮す本丸と離れている。なるべく顔を合わせないためと。
もはや、一つの離れ(二階建て)として作られている。離れの二階から本丸の様子が確認出来るようなっている。
「顔がいいのが嫌いだけで、俺たちを嫌ってるわけじゃないから。」
「そうか。」
「あんなだけど、いい人なんだよね。」
穏やかに笑う加州の顔に「人の子とはやっかいなものだな」と返した。
出会いはアレだったが、主は表情豊かで性格も、それそれはそれは面白い性格をしていた。
本人は隠してるつもりだが、幕末時代に名を馳せた新選組のふぁんらしく、彼らに関わる刀を贔屓にしていた。沖田総司もいう天才剣士の刀の加州清光、大和守安定は打刀の中でもよく構う。土方歳三の刀である堀川国広は俺よりも前に来た。まだ堀川の相棒の和泉守兼定は来ていないので二人で早く来るといいねーっとニコニコと笑って話しているのを遠くでみた。堀川は近侍になることなく、その脇差の偵察力で主の周辺に近寄るー顔のいい男を瞬時に捕まえる役目を担っている。
さすが、暗殺に長けている集団の刀達だ。
ついでに、主が顔を見せないかわりにと各刀剣男士の性格や趣向なども調べて貰ってるらしい。なかなか頭の回転の早そうな主だ。
そんな中で、念願だった和泉守兼定と長曽祢虎徹が顕現された。
本丸に猫がしっぽを踏まれた様な「ぎゃぁぁー!!」という色気の無い特大の悲鳴が上がった。まぁ、みんなそれが主の声で、顔のいいのがまた来たんだろなぁって思った。
加州清光曰く、和泉守兼定が、主の苦手なタイプのど真ん中だったらしい。
和泉守と堀川に、こんな主でごめんなさいと何度も誤り、ふらふらになりながら執務室に戻ってそのまま過呼吸を起こして倒れたらしい。和泉守は仕方ないと言うも、その夜に殺気をたてて現世行きのゲートに立っている所を堀川に見つかったらしい。顕現そうそうといのに、慕われるとは刀剣男士たらしだ。
だが、離れていてもここの本丸の空気は穏やかで暖かった。時折に遠く聞こえる君の笑い声が戦の中というのを忘れさせてくれる。
さて。昔話はここまで。
ひさびさに見る主。家と血の縁を絶ち、現在は仮の身分で大学で勉学しながら審神者をしている。当時より髪は伸び、内側だけ赤く染めた不思議な髪色を、誰に貰ったんだが簪で横に纏めている。上は和装の服に下は袴に似たような洋装のわいどぱんつ姿。
加州や乱藤四郎、次郎太刀の指導もなのか、容姿に女性らしさが出ている。最近、合コンに誘われるのに必死で逃げているらしい。
当時はまだゆるくとして感じられなかった彼女の霊力は、本丸と同じように広い草原のような心地いい風を纏う大きなものと変わっていた。ただ、その大きさに、少し震えてしまうぐらい。
「俺をお呼びとは珍しいなぁ。」
お互いの素顔を晒して顔合わせはそうそうない。昼に貞坊から主が夕餉後に執務室に来て欲しいと伝言を頼んだらしい。
ほとんど入ることのない執務室。
普段は短刀、脇差が、近寄ると顔のいい奴ら(特にへし切長谷部)を足止めするのに揃っているのにそれもない。加州初めの新選組もいつの間にか近侍になった亀甲貞宗の気配もない。
執務室は薄明かり。顔はお互いに見えるか、見えないかのぎりぎりと所。
「ですねぇ。」
「その『いけめん嫌い』は大丈夫なのかい?」
「最近はなんとか。たまに兼さん将棋うちと一緒に慣らしてますよ。」
なんだかんだで、努力家でもある。
いや、負けず嫌いかもしれない。
「それで、俺に用とは?」
「そろそろ太刀で誰かと思っていたので、やはり初太刀でもあるアナタに修行に行ってもらうかなぁーっと。」
「こいつは驚いた。それぐらいいつもの伝言でいいだろ?」
基本的に、主の命は伝言。出陣、遠征、内番は伝言板に張り出されるか、近侍が朝餉の時に連絡をする。なので、こうして個人的に呼び出す事はない。
「そう考えたんだけど、なんだかんだで古参じゃないですか。初めなんだからちゃんとご挨拶をと。」
「君、たまに生真面目だな。」
「えぇ、外面だけは良くしてるんですよ?」
「そうだった。君は怒らせると怖いからなぁ」
お互いに小さく笑う。
「それで、いつにするだ?」
「明日でも行きます?」
「わりとそっけないなぁ」
「お互い、情はそこまでないでしょ?」
会話という会話は常にない。すれちがったら挨拶するぐらいだし、たまにこちらがイタズラしに行く「また!この白い悪魔!!」と怒鳴ってくるぐらいだ。
「………わりと君のこと気にいってるんだがなぁ?」
「それはそれは。上司としてありがたい限りです。」
たぶん、これ以上は主に踏み込んではいけない。そんな気がした。
「修行にいってくれますか、鶴丸国永。」
「主の命とあれば仕方ない。鶴丸国永、拝命する」
翌日には俺が修行に行くと、朝餉の席で加州から連絡がはいる。皆が驚き、光坊がお祝いの準備をしたかった!と投げていた。
昼には大和守から修行道具一式を手渡され、夕方に本丸をでる。縁がある物はゲートの前で見送りをするも、そこには主の姿はない。
やはりか。何を期待しているんだろう。
加州と大和守が俺の名前を呼び、あっちあっちと指をさす。
指の先に、主がいる二階の離れ。目を凝らすと二階の窓で頬杖をついて、こちらを見ている主。
ーーーいってらっしゃい。
声はない。ゆっくりと口だけで言い、手をふる。
「あ」
その声は誰だかわからない。ふわりと桜の花びらが舞う。
「それじゃ、行ってくる!」
ーーーさて、君にどんな驚きを持ち帰ろう。
↔↔↔↔↔↔↔↔↔
主「これで、落とし穴被害が減る!!」
加州「それが本音なの!?」
いつも酷い扱いをさせてる鶴さん。
たまにはかっこいい鶴さんを書きたくなったので。