おンなの子はままならない性別を偽って生活を送る上で、自分には多少のアドバンテージがあるとを自覚している。
デフォルトで設定している反射や、今までの投薬・実験の影響による第二次性徴発現の微弱化が、巡り巡って功を奏した。
色白は七難隠すという先人の偏見もあながち捨てたものでないし、脂肪や筋肉の隆起による凹凸に欠けるものの、出っ張りの少ない骨格はボディラインを女性的に見せる機能を果たしている。
正直一番手っ取り早いのはベクトル操作でホルモンバランスを弄る方法だが、ちょっとした意地でなるべくカミサマの与えた運命に逆らってみたいなどと考えてしまった。
洗面台の鏡に映る自分の身体を隅から隅まで眺めていると、肩口が薄ら内出血しているのが見えた。
スーパーの特売釣果を思い出せば詮なきこと、しかし一回であれだけ買い物をして冷蔵庫に収まるものだろうか。
会計もまとめて払うと申し訳なさそうにされてしまったが
「死ぬまでに使い切れない程度には資産があるから」
「ぐ、それは羨ましい…けどそれとこれとは別問題!」
「なら授業料、野菜の袋詰めも教えてもらったから」
「そんな高い授業料を設定した憶えはありません!」
「じゃア…手間賃?」
「もう雑になってきてない?」
という押し問答を経、結局「俺にしてほしいこと何か考えておいて!」と上条が折れて場を収めることができた。
こちらからすれば寧ろ釣りが出るくらいなのだが…。
「上条にしてほしいコト、かァ…」
と呟いていると「アナタは服を脱ぐのに一体どれだけ時間をかける気なのかなってミサカはミサカは〜」と浴室から催促され
慌てて「ハイハイ今行きますゥ」と腰にタオルを巻く。
「遅い!もうのぼせるかと思った〜…って、ええ!?」
「煩エ…一体何だってンだ?」
「ちょ、ちょっとアナタそれって…」
打ち止めの指差す先を見ると、それは先ほど鏡で確認した内出血。
「いつの間に不純異性交遊なんてするようになったの…?ってミサカはミサカは思春期JKの風紀の乱れに嘆息してみたり…」
「…はァ……??」
突然予想外な単語がポンポン飛び出し、フリーズしてしまう。
だが一つ一つ拾い上げて組み立てると、信じ難くありつつも合点の行きそうな結論に辿り着いた。
「はアアア!?!?違いますゥ!!このマセガキ!!!」
「いったあああ!!暴力反対!!!ってミサカはミサカは…」
『ちょっと静かにするじゃん!!』
「「すみませんでしたあああ!!!」」
保護者からの怒号に口論()もたけなわ、一旦事なきを得たかのように思えた。
「…で、相手は一体誰なのかな?ってミサカはミサカは追及の手を緩めずに迫ってみたり」
しかし、幼女の好奇心は留まることを知らず。
こちらがスポンジを泡立てて皮膚の上を滑らせている間も、その口を塞げる戸は存在しない。
「すぐそっちの方面に話を持っていくとは、とンだ耳年増だな」
「MNWの流行トピックだから仕方ないのってミサカはミサカは弁解してみる…で、結局どうなの?」
「…オマエらが楽しめるような話題は残念ながらありませーン、これは上条が…ってなンだその目は…」
「…ヒーローさん、流石にその手の速さにはがっかりしたかも…」
「低レベルな妄想に巻き込むのはやめてくださァい」
ボディーソープをシャワーで流し終わり、打ち止めに向かい合ってバスタブに浸かる。
今日の入浴剤は某ドイツメーカーのバスミルクだ。
「荷物持ちの手伝いで出来た内出血」
「なんだ、つまんない…というかアナタが荷物持ちなんて明日は季節外れの大雪?ってミサカはミサカは天変地異の前触れを恐れてみたり」
「明日から風呂は別々な」
「って勿論冗談に決まってるじゃない!ってミサカはミサカは前言撤回!!」
「いや割と本気で」
「え〜、百合子お姉ちゃんとのお風呂大好きなのに〜」
あくまで同性同士のノリを続けてくる打ち止めを咎める権利は俺にない。
情操教育への影響は危惧しているが自分自身にも他意はないため、保護者たちが止めるまでは現状維持でいいのだろうか。
コットンミルクの香りに包まれながら、思考は解けないまま、それでも少しずつ緩んでいった。