まいにち無占(じゅうににちめ) ◆◆◆
今日は芋を甘辛く煮た料理だった。葉物野菜に見たことのあるものがあったから、多分仕入れはこちらでしているのだろう。
昨日は麺で、箸というものを使うのには難儀した。
見かねた范八が食べさせてくれた。別に手は怪我していないというのに、譲らなかった。
……メロディー家にいた時は、こんな風に気を許してしまう相手なんていなかったから、不思議な気分だ。
そう、気を許してしまう相手──ノワールは気配に敏感だったはずなのに、謝七と范八のことに対してはその勘を鈍らせてしまう。
最近では、近くに二人がやってきても起きられない。
これは流石に良くない。
謝七と范八が善人だとして……善人だとしても、いつかメロディー家に戻らねばならないノワールはこれ以上二人となれ合うことはできない。
許されない。
謝七と范八は心底から一般人には見えないが、少なくともノワールには優しくしてくれた。
そんな相手をノワールの日常に巻き込むことはできない。
「……早く、戻らないと」
ぐっと唇を噛み締める。
ここにかくまわれてから一か月が経つ。メロディー家の人間もノワールを探しているに違いないし、いい加減にここを出なければ。