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    ori1106bmb

    @ori1106bmb
    バディミ/モクチェズ

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    ワンライ(映画/けっこん) 運転席のドアを閉め、携えていたコンビニ袋を助手席へ無造作に放る。中から取り出した缶コーヒーを飲みながら、一緒に買ってきた今日の朝刊を広げた。
     一面にはセンセーショナルな殺人事件の記事。

    『○月×日午後△時頃、□□市の教会で殺人事件が起こった。被害者はチェズレイ・ニコルズさん(31)。教会では結婚式が執り行われている最中で、突然乱入してきた男が新郎のニコルズさんに向かって発砲。ニコルズさんは胸など数箇所を撃たれ、その場で死亡が確認された。犯人の男はすぐに取り押さえられたが、その場で自殺。四十代くらいの男で所持品はなく、警察が身元の確認を急いでいる。……』

     昨日起こったこの事件の一部始終を、俺は参列者としてベンチで眺めていた。
     新郎たちが神父へ生涯の誓いを立てる瞬間、厳かな式に一人の男が押しかけてきた。
     皆が一斉に、突然開け放たれた扉の方を振り向く。
     一瞬だった。
     発砲音が立て続けに四発、教会の高い天井に響き渡った。
     銃弾はまっすぐに新郎の一人……チェズレイ・ニコルズの体を貫いた。
     白亜の教会に、生々しい血痕が飛び散る。純白のタキシードを赤く染め、その場に頽れる花婿を、伴侶となる男が縋り付くように抱き留める。神父が救命措置を試みようとしたが、すぐに首を横に振る。ひと目見ただけで絶命しているとわかる、凄絶な光景だった。
     犯人が勇敢な参列者たちによって捕らえられる。俺はその様子を、末席から見守っていた。まるで映画を見ているような気分だった。
     チェズレイ・ニコルズ。それが都市伝説級の犯罪者『仮面の詐欺師』だと知っている人間は、裏社会でもごく一部。そして俺も、その一握りの人間だった。
     仮面の詐欺師が死んだ。こんな全国紙の一面に載る前から、そのニュースは瞬く間に裏社会に広がっていた。
     コンコン、と車のサイドガラスがノックされる。すぐにドアが開き、ふたりの男がずかずかと乗り込んできた。
     すぐに新聞を畳み、助手席に放り投げる。仕事の時間だ。
    「出迎えご苦労様です。車を出してください」
     俺はボスの命令どおり、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
     今日の車は広々としたリムジンではなく、この国で広く流通している一般的な車種で、後部座席との間を隔てる仕切りガラスなどはない。ふたりの会話は運転手である俺に筒抜けだった。
    「いや~、あっさり片付いてよかったねえ」
    「私が死んだものと思ってすっかり油断しきっていましたからねェ」
    「大将の作戦勝ちだね。いよっ、さすがは仮面の詐欺師」
     仮面の詐欺師の死は、作戦の一環だった。たびたび仮面の詐欺師の活動を邪魔してきた、この国に古くからのさばっているマフィアを潰す。我らがボスがその計画を立ててから、ついに今日。この国の裏社会の勢力図はがらりと塗り変わった。明日の朝刊の一面を飾ることなく、ひっそりと。
    「フフッ……私が現れた瞬間のドンの顔といったら、なかなかの見ものでしたね」
    「幽霊が出た~! って顔してたもんね。あんなにビビっちまうとは思ってなかったよ」
    「ホラー映画が苦手、などというくだらない情報も、なかなか役に立つものですねェ」
     我らがボスことチェズレイ様の本日のお召し物は、オーダーメイドのスーツではなく、黒尽くめの潜入服でもなく、血塗りのタキシード。昨日命を奪われた花婿そのものの衣装だった。鉄砲玉に仕留めさせたはずの男がこんな格好で現れれば、そりゃあ幽霊が化けて出たとでも思うだろう。
    「にしてもさあ、嘘の結婚式なんてわざわざでっち上げる必要あった?」
    「こちらが浮かれて油断していると思い込ませられますし、何より的になりやすい場所でしょう。教会の扉を開ければ、バージンロードの先に護衛も壁もなく標的の私が立っているのですから。おつかいの子どもにだって成せる犯行です」
    「子どもにゃさすがにさせられんけども……護衛もなくってのは、ちと語弊がないかい? 咄嗟にお前さんの前に出ちまいそうで、こっちは大変だったんだから」
    「あァ……我慢してくださってありがとうございます、優秀な守り手殿。ギラギラと滾るあなたの殺気、隣に立っているだけでひしひしと感じていましたよ」
    「いくら振りっちゅうても、あんまり気分のいいもんじゃないね。目の前でお前が死ぬってのは」
    「おや、守り手殿はご機嫌斜めでいらっしゃる? 申し訳ありません、なにせ死体の演技は特技なもので、せっかくの特技を久々に活かせる場とあってはねェ……。初めてあなたと出会った日も、私は見事な死体だったでしょう?」
    「ああ、そうね。テロリストの凶弾にあえなく倒れた、恋する空のお姫さまだった」
    「そんな死体の私を、あなたは空までわざわざ迎えに来てくださった……昨日、私の死体を抱き留めてくださったあなたも素敵でしたよ」
    「んん、誤魔化そうとしとるな……? ま、いいけども」
     急に後部座席が静かになる。時折聞こえてくるのは、密やかな水音と、くぐもった甘ったるい吐息。バックミラーを覗けば何が起こっているかは窺えるが、まあそれは野暮というものだろう。まもなく目的地に到着するところだったが、少しだけ多めに角を曲がった。
     やがてゆっくりとブレーキを踏み、車を目的地の前に停める。「ご苦労様でした」と一言労いをくださったチェズレイ様は、俺が後部座席に回ってドアを開ける前に足早に車を降りた。そして連れを急かすようにセーフハウスへと入っていく。
     主人とその相棒を下ろした車を車庫へ入れるため、再びアクセルを踏もうとしたところで、また窓ガラスをノックする音が聞こえた。助手席の方を振り向くと、モクマさんが立っている。サイドガラスを下ろした。
    「あのさ、写真見せてよ」
    「えっ」 
    「式の写真。席から撮ってたでしょ」
     目敏い。さすがは東洋の忍び、ボスの相棒、もとい影……もとい、伴侶。
    「お~、美人さんに撮れとるねえ。データもらっていいかい?」
    「あ、はい勿論」
    「いやあ、俺、あいつのすぐ隣にいたでしょ。せっかくの晴れ姿だったのに、あんまりじっくり見てられんかったからね」
     人のタブレットと自分のタブレットを覚束ない手付きで操作しながら、食えないたぬき親父は「きれいだったね~」などと暢気に宣っている。
     ほんの一瞬、琥珀色の瞳が昏い色を帯びた。俺が本当に式の一部始終……男の乱入からチェズレイ様が斃れるまでの全てを、レンズに収めていたからだろう。発砲自体は本物でも、血糊は仕込みだったはずなのに、まるで本当に撃たれたかのようだった。チェズレイ・ニコルズの死の瞬間。それは最もそばでボスを守るこの人が、最も見たくないはずの光景だった。
    「んで、これってまだ誰かに売りつけたりしてないね?」
    「……あ~、ええ、勿論」
     俺がこの写真を組織の奴らに……式にダミーの参列者として出席できなかった奴らに売りつけて小銭を稼ごうとしていたことまでバレていた。我らがボスは組織中の構成員の憧れであり、高嶺の花だ。その魅力に取り憑かれた人間たちが、こんな美しいボスの姿を、たとえデータとはいえ欲しがらないはずがない。
    「うんうん、お前さんは話が早くて助かるよ。だからチェズレイも気に入って運転手にしてるんだろうしねえ」
     言外に「裏切るな」と言われているようで心が痛い。俺は今の立場を気に入っているので、大人しく従ってデータを消すことにする。
     俺にタブレットを返却したモクマさんは、「じゃ、また本番やる時にもカメラマンよろしくね~」と、チェズレイ様が待つセーフハウスへと帰っていった。
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235

    つばき

    PROGRESSモクチェズ作業進捗 大人になると大事なことほど言葉で伝えなくなる。

     それはお互いに言わなくてもわかるだろうという共通認識があるからでもあるし、言葉にするのが気恥ずかしいからでもある。
     だから俺達の関係性についてわざわざ明言したことはなかった。「相棒」であることは間違いないし。チェズレイも直接的な物言いをするタイプではないから言葉遊びも多いし。掘り下げんでいいかい?とはぐらかす癖もまだ直っていないし。とひとしきり脳内で言い訳を重ねたところで、頭を抱える。

    (昨日のはもう、言い訳しようもないよねえ……)





    「チェズレイ、もう寝るかい?」
    「いいえ、まだ付き合いますよ」
     下戸だと言ったチェズレイが晩酌に付き合ってくれる夜は日常になりつつあった。晩酌といっても全く飲まない時もあれば、舐める程度のお付き合いの時もある。でもその日は珍しく、二人でどぶろく一瓶を空けようとしていた。
     顔色も声色も変わっておらず、ちょびちょびとお猪口を傾けながらしっとりとお酒を楽しんでいる。ように見える、が動作が少し緩慢で目線はお猪口の中の水面に注がれている。まだまだ酒には慣れておらず、やはり強くはないようだ。
     ぼ 2758

    nochimma

    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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