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    riuriuchan1

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    riuriuchan1

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     三ツ谷隆が死んだ。首を絞められたことによる窒息死だった。うちのベッドよりもはるかに小さい箱の中に収まった三ツ谷は花に埋もれて静かに目を閉じていた。
     奴は確かに死んでいた。触れた唇は氷のように冷たかったし、いつもは嬉しそうに俺の舌を招き入れる口が死後硬直で石のように固まっていたから。加えて奴が火にくべられ骨だけになったところもこの目でしっかりと見ている。結局たいして背の伸びなかった三ツ谷が遥かに小さい骨壷の中に収まる光景は未だ網膜に焼きついて消えていない。
     ──では、目の前にいるこいつは何だ?
     きちんと血の通った顔色、唇はほどよく赤く染まり、笑うと涙袋が強調される目の下に青隈の気配はない。物言わぬ屍となって発見される3日前、俺を訪ねてきた時よりも遥かに健康的な姿になって三ツ谷隆はリビングでくつろいでいた。お笑い番組を見てケラケラと笑っている。遠い昔、俺の隣で爆笑する三ツ谷を八戒が目を丸くして見ていたことを思い出す。
     いや、今は『そんなゲラゲラ笑うタカちゃん初めて見た』と八戒が漏らした言葉に優越感に浸っている場合でも思い出話をしている場合でもない。自宅に不法侵入者、それも既に死んでいる人間が。
    「あ、おかえり大寿くん」
     ウワ喋った。
     三ツ谷は緩慢なしぐさで俺に視線を移すと、元々垂れた目元をさらに垂れさせた。どれだけ鈍感な人間であろうとその視線に込められた好意に気づかずにはいられない、甘ったるい瞳。三ツ谷は家で、街中で、ベッドの上で、この瞳を俺に向けてきた。
     こいつが三ツ谷隆によく似た別人であるという線は消えた。この甘ったるい瞳を持ち得るのは三ツ谷しかいない。
     ならこれは幻覚か。立て続けに大切な人間を失ったせいで俺の頭は狂っちまったのか。
    「大寿くん部屋荒れすぎでしょ。カップ麺のゴミもそのまんまだしさー俺片付けておいたから!」
     どう?綺麗なったっしょ?と両手を広げる三ツ谷に言われて部屋を見渡せば、家を出る前の惨状とは見違えていた。床に落としてそのままにしていた服もゴミも綺麗に片付けられている。
     この家の鍵を持つのは俺と三ツ谷しかいない。それはそのまま何重のセキュリティに守られた28階に侵入できるのもまた俺と三ツ谷しかいないというのを意味する。つまりゴミを捨て服を畳んだのはこいつ以外にありえない。
     拳を突き出す。ボテッと平らな腹に突き当たり三ツ谷が痛ぇと声を上げた。急に殴るとかひでぇ!とプンスコしている三ツ谷を横目に、俺は自分の拳を見つめる。確かな感触があった。幻じゃねぇ。
    「さ……」
    「さ?」
    「触れるのか……」
    「ハハッ!第一声がそこぉ!?大寿くんってほんとおもしれーワ。ま、普通幽霊って透けてるもんな」
     「でも俺はすごい幽霊だから実体があんの。ちゃんとキスもできるよ?」と目を細めた三ツ谷が背伸びをして顔を近づけてくる。
     俺は咄嗟に十字架を突き立てた。
    「悪霊退散!!」
    「ちょっ今キスするとこでしょ!」
    「テメェ化けて出てくるとか何を企んでやがる、何が望みだ!?」
    「死んだ恋人の幽霊が現れたら泣いて抱きしめるだろーが普通!?なんで除霊しようとしてんの!?」
    「うるせぇ俺は幽霊なんてモン信じてねえんだよ!」
     十字架を翳したまま距離を取る。触れるならなんだ、幽霊じゃなくてゾンビか?いやコイツの身体は灰になったから墓の下から蘇るなんぞありえねえ。じゃあなんだ、幽霊とゾンビの複合体か?その場合はどうすりゃいい。
     塩だ。とりあえず塩を振っとけ、とキッチンへ走る。すると三ツ谷が背中にしがみついてきた。服越しに疑いようもない人間の体温を感じる。
    「おい!俺に塩ぶっかけようとしてんだろわかってんぞ!?いいから俺の話聞いてよ、俺もさ首絞められて、目の前真っ暗になって。そんで気づいたらここにいたんだ」
     ──幽霊ってさ、この世に未練があるから化けて出てくるんだろ。俺も未練があるからここにいるのかも。
     だから大寿くん、と三ツ谷は言った。俺に絡んできては笑っていたあの頃と何一つ変わらない声で。
    「俺が未練を晴らして、成仏できる手伝いしてよ」

     これが、幽霊三ツ谷隆と過ごした五日間のはじまりだった。
     
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