Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kidd_mmm

    @kidd_mmm

    よろしくお願いします。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 😍 🐈
    POIPOI 21

    kidd_mmm

    ☆quiet follow

    ノスクラともクラノスとのつかないやつ16
    アカジャというか再会したやつ見る前の構想そのままで終わりまで書く予定なので嫌だったらゴメンね

    #吸血鬼すぐ死ぬ
    vampiresDieQuickly.
    #吸死
    Kyuushi
    #クラージィ
    clergy
    #ノースディン
    northDinh

    C-8C-8

     いくつかのドアの前を通り過ぎて、教えられた部屋に入る。壁際にクローゼットと整えられたベッド、それから正面の書き物机をはさんで、本棚、姿見。掃除の行き届いた居心地の良い部屋だ。ベッドの上には新品のパジャマまで用意されている。
     クラージィは柔らかいベッドに腰を降ろし、行儀悪く仰向けに倒れた。指で唇に触れる。まだ血と体温の味が口の中に残っている。なかなか牙の入らない肌の弾力も。
     意外なことに――いや当然なのか、その味と感触は不快なものではなかった。自分で予想していたほどの抵抗も忌避もなく、かえって困惑するほど円滑にことは済んだ。
    (いや、円滑……ではなかったな)
     ノースディンは何も言わなかったが、かなり痛かったのではないだろうか。元から青白い顔が真っ白になっていた。その場に残してきてしまったのはまずかったように思う。心配だったが、棺までついていくのはさらにまずかろうとクラージィは思った。ドラルクからは、棺のありかは吸血鬼の社会において大変繊細な話題と聞いている。
    (明日になったら謝ろうか)
     クラージィがぼんやり考えていると、部屋のドアノブがカタカタと不自然に動き出した。クラージィは起き上がり、ドアを開けた。一匹の猫がドアノブを器用に前脚で挟んでいる。猫はドアノブから前脚を離し、後ろ脚で立ったまま固まった。
     灰色の短い毛をした綺麗な猫だ。猫のこういう毛色をブルーと言うらしいが、どこで聞いた知識だったか。胸の毛だけが白く、ちょうど古風なクラバットでも着けているかのようだ。ノースディンが飼っているのだろうか。
    「ひょっとして、この部屋は君の縄張りだったのかな?」
     猫は固まったまま、赤い眼でクラージィを見あげている。
    「この家のご主人の計らいでここを借りるけど、すまないね……ご主人のそばに行ってあげて欲しい。体調がすぐれないだろうから」
     猫は前脚を床に降ろしてあくびをすると、ふいと背を向けて去って行った。クラージィは苦笑いした。
     クラージィは用意してあったパジャマに着替え、ベッドに入った。それから室内を一瞥した。来客用の寝室に机や空の本棚は置かないのではないか。これは家族を住まわせるための部屋だ。
    (『血族』か……)
     部屋数の多い家だ。耳を澄ますと、家屋全体のあまりにもひっそりとした空気がクラージィを包んだ。

     * * *

     クラージィが起きたときにはすでに夜になっていた。
    「おはよう、いや、おはようじゃないなノースディン」
    「いい夜だ。ずいぶんよく眠っていたようじゃないか?」
     ノースディンは書斎で机に向かって、ちょうどスマートフォンの通話を切ったところだ。顔色はすっかり元通りだった。ノースディンは立ち上がって、壁を埋める本棚の前に置かれていた椅子を机の傍に動かした。クラージィはすすめられるままに椅子に座る。
    「どうだ、一人前の吸血鬼になった感想は?」
     ノースディンは机に戻って、背もたれに腕を掛けて横向きに座った。
    「噛まれるととても痛いのを思い出した。あの後は大丈夫だったのか? ひどい顔色をしていたが」
    「ご覧の通りだ」
     ノースディンは両手を広げて見せる。
    「傷ももう塞がっている。気にする事じゃない」
     クラージィは頷いて、ノースディンの言葉の続きを待った。
    「……」
    「……」
     気まずい沈黙にふたりは顔を見合わせた。先に口を開いたのはクラージィだった。
    「昨日までのひと月は半人前だったということになるが……その間にいろんなことがあった。いろんなものを見たよ、ノースディン」
     知らず、クラージィの口から笑みが漏れる。対するノースディンは少しムッとした顔でクラージィを見ていた。
    「ふざけた街だ。大変だったろう」
    「そうだな、驚きに押し流されるばかりのひと月だった。ドラルクが元気に人間と暮らしている、それだけでも大変な驚きだ」
    「あれは楽しければ死んでも良いと思っているんだ。享楽ここに極まれり、だな。心のままに生きている」
    「ドラルクはともかく、あの街の住人は良きにつけ悪しきにつけ、自分の心に従って生きている。退治人が吸血鬼の依頼を受けたり、少女が公僕として頑張っていたり、吸血鬼がニンニクラーメンを追求していたり、誰彼構わずジャンケンをしたがる吸血鬼がいたり」
    「お前あのジャンケンハゲにも遭遇したのか」
    「ケンはあれでも、親切ないいひとだぞ。やり過ぎると人間同様しょっ引かれる、というのも教えてくれたし」
    「何があった!?」
     クラージィが、ジャンケンには勝ったから安心して欲しいと説明しても、ノースディンは少々動揺していたようだった。
    「そうしてあの街は回っている。人間も吸血鬼もそれほど違いはないという真実が、そこにはあるよ。二百年で、人と吸血鬼は隣人になれた」
    「二百年かかって、あの街だけだ」
     ノースディンは渋い顔をしていたが、クラージィは確信を持って言った。
    「次の二百年には、同じような街がもっと増えるだろう」
    「ム……」
    「私が見たものはあの街のごく一部だ。私の知らない問題がきっとあるし、これからも起きるだろう。人間と吸血鬼がそれをどう乗り越えるのかを、私は見たい」
    「新たな抗争の時代が来るかもしれないぞ」
    「そうなる前に私は、せめて自分にできることをしようとするだろう。だが、そうはならないと信じている」
    「あー、つまり……」
     ノースディンは眉間を押さえた。
    「お前は気に入ったんだな? あの街が」
    「そうだな」
     クラージィは静かに答えた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖❤👏👏❤👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kidd_mmm

    TRAININGノスクラともクラノスとのつかないやつ16
    アカジャというか再会したやつ見る前の構想そのままで終わりまで書く予定なので嫌だったらゴメンね
    C-8C-8

     いくつかのドアの前を通り過ぎて、教えられた部屋に入る。壁際にクローゼットと整えられたベッド、それから正面の書き物机をはさんで、本棚、姿見。掃除の行き届いた居心地の良い部屋だ。ベッドの上には新品のパジャマまで用意されている。
     クラージィは柔らかいベッドに腰を降ろし、行儀悪く仰向けに倒れた。指で唇に触れる。まだ血と体温の味が口の中に残っている。なかなか牙の入らない肌の弾力も。
     意外なことに――いや当然なのか、その味と感触は不快なものではなかった。自分で予想していたほどの抵抗も忌避もなく、かえって困惑するほど円滑にことは済んだ。
    (いや、円滑……ではなかったな)
     ノースディンは何も言わなかったが、かなり痛かったのではないだろうか。元から青白い顔が真っ白になっていた。その場に残してきてしまったのはまずかったように思う。心配だったが、棺までついていくのはさらにまずかろうとクラージィは思った。ドラルクからは、棺のありかは吸血鬼の社会において大変繊細な話題と聞いている。
    2278

    related works

    recommended works