畏怖そうで畏怖くないちょっと畏怖い話「畏怖……イワゴウサン? 畏怖ダト思イマシタ。最近」
「イワゴウ……?」
誰だそいつは。ノースディンは眉間にしわを寄せる。吸血鬼の『畏怖欲』について話しているときに、クラージィが挙げた名前である。
コタツに招かれているノースディンの左隣では、目付きの鋭い男が飲んだ日本茶に咳き込んでいる。
「イワゴウさんに?」
一方、正面に座る眼鏡の男は膝の上の猫を撫でつつ同意した。
「あーわかります。ネコ好きのカリスマですよね、あの人」
どうやらイワゴウとやらは高いカリスマを持つ人物らしい。目付きの鋭い男――名前を思い出した。ミキだ――が説明を加えた。
「外国のかたは知らないかもですね-。日本で人気の写真家です」
「写真家」
畏怖の方向性がわからない。ノースディンは右隣のクラージィを見る。眼鏡の男がノースディンに言った。
「イワゴウさんのテレビ番組、録画見ます? 『世界ネコ歩き』っていうんですけど」
「ヨシダサン、マジデ?」
眼鏡のヨシダが提案すると、クラージィはあり得ないテンションの高さで身を乗り出した。
「俺、見たこと無いんですよね。やっぱ良いです? ネコいっぱい出ます?」
「出ます出ます」
ミキも控えめながら高揚しているようだ。ネコの映像を見るだけでこんなに? しかも、ここに本物のネコが三匹もいるのに? ノースディンには理解しがたい展開である。それよりクラージィ、お前そんなにネコが好きなのか。
「まあ本編は長いですからミニのほうで。イワゴウさんの凄さがわかる回、あったはずなんですよねえ」
ノースディンの返答を待たずにヨシダはリモコンを操作する。のどかなテーマ曲とどこかの田舎の映像に続いて、『世界ねこ歩きミニ』のロゴが表示される。