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    banikawasonoko

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    ジョウイ母。ジョウイはローザを慕ってたけど、ローザはジョウイの事そんなに好きじゃなかったんだろうし、ジョウイもそれを知ってたんだろうな。

    2025-03-31

     部屋に入ってきたマルセルに駆け寄った。外を見るのが怖い。万に一つでも、庭にジョウイがいたらと思うと背筋が震えた。
    「あの子は」
    「軍に引き渡したよ。あとは向こうでどうにかしてくれる」
     ああ、と声が漏れた。
     ユニコーン部隊を裏切り、ジョウストンに通じていたと聞いたときは、嘘だと思った。そんなことをする子ではない。優しく責任感のある子。守るべきが何かを知っている子だ。
     だけれど、信じ切ることは出来なかった。そんなのは嘘だと声を上げ、軍に逆らい、あの子を守る。それが母の役目なのだろうけれど、出来なかった。
    「私は、ひどいことをしているのでしょう」
     マルセルは何も言わなかった。私だけが胸を痛めている。同時に二度とあの子の顔を見ることがない事に、心底ほっとしている。白金色の髪に銀色の目。あの男によく似た、薄い唇。
     遠い記憶だ。組み敷かれた時の高揚感と貫かれた時の痛みは鮮明に覚えている。許されないと知っていたし、許されようとも思わなかった。
     あの男を愛していたのかは思い出せない。単なる遊びだったようにも思う。単なる庭師との、秘密の共有。共有しているという事実だけが大切で、それが誰とであるかはどうでも良かったような気がする。
     だからジョウイを身ごもった私を捨て、あの男が姿を消した時も、当然だと思った。秘密は公然のものとなり、その甘美な色を失った。
     あの子はその結果だ。若かった愚かな私の色褪せた過去。
    「……アトレイドの名を汚した以上、許すわけにはいかない」
     そもそもの存在が罪の結果だというのに、今更だ。いつかこんなことが起こることを、マルセルは、私は望んでいたのではないか。
     何もかもを背負って消えてくれることを、願っていた。
     ぎゅっと心の臓が縮こまるのを感じた。あの子は、私が遊びで生んだあの子はそれでも私を母と慕い、望み、手を伸ばしてくれた。私はその手をとったつもりだったが、いつもその手は冷たかったように思う。
     ジョウイが隠れて町はずれの道場へ行くたびに、そのまま帰らずとも良いと思っていた。思ってはならないと、知っていた。私の願いを知っていて、それを叶えるためなのか。ジョウイは私の望みの通りに、私を慕うままに距離を置いてくれた。
     この街を外敵から守るユニコーン部隊に、アトレイド家の長男が入る。それが名誉となることをあの子はちゃんと分かっていた。私たちが望むことを、ずっと。
     息がうまく出来ない。とんでもないことをしている。私の息子はきっと死ぬのだ。私が手を差し伸べなかったから。
     膝を折った私をマルセルが抱き寄せる。まるで愛してでもいるかのように髪を撫でた。
    「なにも心配はない。お前は休んでいなさい」
     早晩片が付く。私の愚かさの結果は、私より先にこの世から消えてなくなるのだ。
    「私は」
     ホロホロと涙がこぼれたが、それが死にゆく息子を悼むものではなく、辛い選択をする己を憐れむものではないと、私にはどうしても断言が出来ない。

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