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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ティントに行く前、ビクフリ? ビクフリかこれ。仲良し腐れ縁。ビクトールさんが意外と元気でカラッとしててなんか良かったねって。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-07-06

     ティントにゾンビが出た。灯竜山の山賊がもたらした情報は、やにわに城内をざわつかせた。これまで一向に反応を見せなかったティントへ直接交渉の場をもつ切っ掛けになろうという判断と山賊の塞を襲ったのがゾンビだとすると王国軍とはおそらく直接関係がないだろう判断。
     ティントとはいつかは話し合いの場を持たねばならない。同時に、王国軍とは別勢力ならば二両面作戦を強いられることになりはすまいか。それは避けるべきだが、避けた結果助けを求めてきた山賊の、ひいては世論の信用を失ってはつまらない。
     山賊は助ける。ティントもこちらに引き入れる。だが、ハイランドへの警戒を怠ることは出来ない。
     好都合だった。そう思う自分に、ビクトールは少しばかり驚いている。
    「本当に着いていかなくていいのか」
     明朝の出立に備えて準備をするビクトールに、フリックが言った。小さな卓には酒瓶とグラスこそ並んでいるが、グラスは乾いている。準備と言っても今更たいそうな事もない。薬の類の不足はないか、装備の不具合はないか。いつものものと一緒だ。
     心が凪いでいる。ティントにネクロードがいるというのに、まあ冷静なものだ。少ない荷物を詰め込んだ鞄をベッドのわきに置いて、ビクトールは振り返った。
     細長い手足をもてあますように小さな椅子に座ったフリックが、気づかわし気にビクトールを見ている。
     ティントにはネクロードがいる。
     ネクロードはビクトールの仇だ。平静で居られるはずもない。平静でないさまを、フリックには何度も見せているからその評価は正当だ。平静でない人間に、タイラギを任せることはできない。まだグランマイヤー市長が健在だったころとはタイラギの立場がまるで違うのだ。
     何より。眉を寄せたフリックの顔には、はっきりと心配だと書いてある。ネクロードを前にしたビクトールが、ネクロードよりほかの全部をかなぐり捨てる可能性をフリックは懸念している。
     ビクトールは肩をすくめて笑って見せた。自身の好みのワインを両方のグラスに注いで、片方だけ持ち上げた。
    「お前まで城を空けらんねえだろ」
     フリックはなんだかんだとこの軍の騎馬隊を担っている。替えの利くビクトールとは立場が多少違うのだと、分かっているだろうに。
     戯れに置かれたままのグラスにグラスを打ち付け、ビクトールはワインを傾ける。ちゃんと味を感じる。うまいと思う。手も震えていなければ、頭もはっきりしている。
     自分がやるべきことはタイラギを守ること。ティントとの協力を取り付けること。灯竜山とティントからネクロードの脅威を退ける事だ。
     ネクロードはその過程で確実に殺す。その存在のひとかけらすら許してはおかない。怒りはある。憎悪もある。だが、あてどなくさ迷っていた10年とは違う。
     心配、と顔に書いてあるフリックを上から下まで眺めて、ビクトールはまた笑った。付き合いも長くなったが、こんなことになるなんて赤月で出会ったころには思いもしなかった。
    「大丈夫だよ」
     穏やかな声だな、と自分でも思う。フリックは一瞬顔をしかめて、その顔を隠すように手で覆い、そうして指の隙間からビクトールを見やる。
    「信じてないわけじゃない」
     お前は3年前とは違うから。
     フリックがそういうんなら、この穏やかな心持ちも嘘ではないんだろう。
     ネクロードを殺すのは人生の最後の仕事なんて重たいものではない。なさねばならぬことだとしても、あくまでも通過点でしかない。あの吸血鬼に、自分の終わりまで決められてたまるものか。
    「帰ってきたらお祝いしてくれよ」
     3年前は全部投げ捨てた。祝いの言葉なぞ耳にも入らず、ただ終わったという虚脱だけがあった。今はそうではないから、約束を取り付けることができる。
     手を顔から離したフリックは、眉根を寄せたままそれでも目を細めた。
    「分かってるから、ちゃんと帰って来い」
     戻るべきところがそう言うなら、ビクトールにも否はない。
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