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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ノースウィンドウ。ネクロードの生存が明らかになった時。2主君からみたビクトールさん。2主君はビクトールさんが好き。

    #幻想水滸伝2
    theWaterMarginOfIllusion2

    2025-04-22

    「タイラギ、もしビクトールがおかしくなったらさっさと逃げていいからな」
     宿を出る前フリックさんが僕にだけ、それこそおかしな事をいった。対処法でもなんでもなく、ただ逃げろなんて。


     ビクトールさんの様子、たしかにずっとおかしかった。その原因が目の前に広がる廃村だ。建物がそこそこきれいに残っているのに、やたらと道々に墓標が建っているのが異様な、静かな静かな風景。
     ナナミもアイリさんも言葉がないみたいだった。フリードさんは知っていたのか、いると噂されている化け物を警戒してあたりを見渡している。
     ビクトールさんだけがまるで作り物みたいにいつものように笑って見せた。
    「なんもねえとこだろ」
    「あ、あの。ごめんなさいビクトールさん」
     人っ子一人いない、その名の通り風が吹き抜ける音ばかりする村に気圧されて、ナナミの顔が青白い。ビクトールさんが、そうあってほしい気安さでナナミの頭を撫でる。
    「大した事ねえよ。まあしけた村だ」
    「しけた村って。こんな」
     草の匂いと風の音。目に映るのは粗末な、何とか立っているだけの墓標の山ばかり。ビクトールさんは静かに言う。まるで静かではない人が、静かに、静かに。
     ここが滅んだ原因と、短く語られる復讐の話。もう終わった話として、二度と触れたくもない話をした。
     僕らはそれを黙って聞いた。何年かかったのか、何をしたのか、成してどう思ったのか。ビクトールさんは僕らには教えてくれないんだ。
     何も言えずに押し黙ってしまった僕らに、ビクトールさんは笑ってみせる。それしか選べないから笑っているんだと僕にだって分かる。
    「まあ全部終わった話だよ」
    「おや、それはどうでしょうね」
     いきなり割り込んできた、ざらりと胸をひっかくような声。思わず視線を向けた先には、ひどく青白い顔の男がいた。随分と古典的なタキシード姿の、まるでこの場には似合わない男がぬるぬると奇妙になめらかな動きで村の奥からこちらへ歩いてくるところだった。
     ナナミが悲鳴を吸い込んだような息をする。男が歩くたびに、地面が脈打ち、どす黒い手が、腕が体が、ずるりと溶けた目を持ったもの達が地面から立ち上がって来たのだ。
    「な、貴様、なんで」
    「人間風情にこの私が殺せるとでも?」
     信じたくないものを見た時、人はこんな顔をする。僕は先日、アナベルさんの執務室でこの顔を見たけど、ナナミの顔に浮かんでいたジョウイに対する驚きよりも、いま、ビクトールさんの顔に浮かんだそれは単なる驚きではなかった。
     驚きと、絶望と、憎悪。さっき聞いた復讐の相手。終わったと、彼自身が言ったのに。
     吸血鬼は哄笑した。真っ赤な口にとがった牙。自分には人をあざける資格があると信じている傲慢な顔。
     ナナミとアイリさんが僕にしがみつく。フリードさんが剣を抜く。
     ビクトールさんは目を見開いて、吸血鬼を見ていた。いつも人懐っこい笑みを浮かべる丸い目が、今は真っ黒に見える。僕らの事なんて見えていない。自分と、生きていた吸血鬼だけが全部なんだ。
     吸血鬼が片手を上げ、また地面から不死者が生える。起き上がる、なんてもんじゃない。安息の眠りを妨げ、摂理をまげて無理やりにこの場に存在させられている彼らは、濁り切った虚ろな目を僕らに向けていた。
    「はぁっ、顔色が変わりましたね。良いですね、その顔が見たくて見たくてここにいたかいがありますよ」
     顔を笑みの形に浮かべた吸血鬼は、首をことりとまげていう。
    「復讐、ってやつですからね。はは、気分が良いですねえ復讐」
     ビクトールさんが拳を握りしめる。剣を抜かないのが不思議だった。
     それでも、顔にうかんだ憎悪の相は全然消えてくれなくて、僕は怖い。何ならこの吸血鬼よりも怖い。僕らをずっと助けてくれた人が、本当じゃあないような気がする。
     これが、おかしくなったってことですかフリックさん。このビクトールさんからは逃げたほうが良いってことですか。
     光のない真っ暗闇の目をした人間なんて、確かにおかしいですけどねフリックさん。
     僕はビクトールさんの手をつかんだ。ぎゅっと強く握りしめる。冷たくて、固い。
    「なんかいい方法ないんですか!」
    「そ、そうだよ! なんかやっつけられるんでしょ!」
     ナナミが一緒にわあわあ言ってくれるのが心強い。ナナミもぎゅっとビクトールさんに抱き着いた。
    「やっつけた、ってビクトールさんさっき言ってたでしょう!?」
    「なんか強い武器とかあるんだ。それ、どこにやったの?」
    「星辰剣は」
     ビクトールさんが目を瞬かせ、僕らを見る。
    「星辰剣のやつ、ぜんぜんダメじゃねえか」
     いつもの少しばかりからかい気味の口調で、ビクトールさんが吐き捨てた。
     ビクトールさん、確かにずっとおかしかった。でも、だからってそのままにして置いたらずっとおかしいままじゃない。そんなのは嫌だ。
     何があったのかは知らない。でも、僕にだってなにか出来るなら、それを成さずに逃げる事なんて出来ない。
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