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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ノースウィンドウ戦前。ナナミとジョウイは2主君の意思をそんなに汲んでくれない印象がある。シュウのが聞いてくれるな、って思いました。まあ、ゲーム上の都合もあるんだが。

    #幻想水滸伝2
    theWaterMarginOfIllusion2

    2025-05-04


     シュウさんが立てた作戦は、僕を何やら目立たせようとしていた。作戦の単純な成功率を考えたら、ビクトールさんかフリックさんがやるべきなのは当たり前なのに、わざわざ僕を指名してたのには多分わけがある。
     ゲンカクじいちゃんの事だろうな。アナベルさんが言っていた。ジョウストンにとって、大事な人であるゲンカクじいちゃん。
     でもあの人は、じいちゃんがいるからじゃなくて、はっきりと僕の目を見ていた。まっすぐに僕を見つめて、この作戦を託してくれた。
     ハイランドがこの岬の先の滅んだ街にやってきているらしい。シュウさんが言ってた。人を集めている以上、どうしたってそれは目立つもの。なんだかんだと名の知れた二人が戦力を集めているという情報は、ハイランドを刺激するに十分だったんだって。
     ふむ。誰もいない町のはずれ、冷たい風が吹き抜ける。やってきた人たちはなんとか形の残った建物に毛布を敷き、火を焚いて夜を過ごしている。
     この戦争が始まってから、何度も越えた夜と同じように。だが、明日からのシュウさんの作戦が成功すればまた少し様相が変わるだろう。
     僕はそれを期待している。
     僕はずっと怒っている。ハイランドにもジョウストンにも。ジョウイにも、多分、ナナミにも。
     ジョウイが僕らの為にハイランドへ走ったことなんて分かっている。
     ナナミが僕らのために逃げ道を見つけようとあがいていることも知っている。 
     その両方とも、僕の為じゃなくて自分のためだと二人は分かっているんだろうか。
     手元のランプがじじ、と音を立てた。石畳に腰掛けているせいで、尻から冷えるな。そろそろ戻らないといけないと分かっているけれど立ち上がれなかった。
     シュウさんの黒い切れ長の目を思い出す。あの人も自分のために僕を動かそうとしている。戦争に参加した以上、勝たなければならないと思うのは当然だ。でもシュウさんはジョウイやナナミと違って、僕のためとは言わなかった。ほかに目的があって、そのために僕が必要だって言った。
     ナナミが反論してたけど。ねえ、違うんだよナナミ。
     ナナミに言いたいことがあるけれど、それを言えば傷つける。だから僕はぐるぐると思考だけを巡らせる。いつの間にか閉じていた目を、ふいに聞こえた足音で開けた。
    「なんか明かりが見えると思ったら、お前か」
    「ビクトールさん」
     明かりと何か紙袋を下げたビクトールさんがぼろぼろの石畳を踏んで歩いてきた。この人がノースウィンドウに来てからずっとうっすら纏っていた剣呑な雰囲気がだいぶ薄れていて、僕はかなりほっとしている。
     そういやナナミ、この人たちのこともそんなに好きじゃないよな。ナナミ、僕ら以外の人間が好きじゃないもんな。
    「ナナミがあっちで大騒ぎしてたぜ」
    「でしょうね」
     僕のことが心配だからだ。大事に思ってくれていることは知っている。でも、じゃあ。
     ため息をついた。隣にビクトールさんがどすんと座り込む。いちいち動作が大きいんだよなこの人。
    「ナナミの気持ちも分かってやれよ」
    「なんです、お説教ですか」
    「忠告だよ。人生の先輩からのな」
     そう言われてしまえば反論のしようがない。なんだよ、村を吸血鬼に滅ぼされて、十年も復讐の旅をして、真の紋章を得てようやく復讐を成したと思ったら実は違って。物語の主役にでもなれるやつじゃん。真の紋章って。真の紋章、実はそんなに珍しくないのか。
    「どっちにしろ聞きませんよ。ビクトールさんだって、戦場にたつ前の晩にフリックさんから説教なんてされたくないでしょ」
    「あいつを引き合いに出すんじゃねえよ」
     ビクトールさんがからからと笑う。笑いを納めないまま、紙袋を僕の膝に置いた。開けてみれば、パンが数個と水筒が入っている。
    「まあ姉ちゃんなんて鬱陶しいよな。とくにナナミはうる、賑やかだし」
     分かったようなことを言う。あの切り捨てた人を思い出しているのかしら。それともアナベルさんの事かな。
     おなかが減っている気はしなかったが、食べられるときに食べるのも仕事だ。すっかり冷めたパンにかじりつき、勢いよく水筒を傾ける。
    「ナナミがどう思おうと、僕はやれますよ」
    「おう、信じてるぜ」
     もし失敗したら、この人もこの城にいる人も全員死んじゃうんだろうと思うと肝が冷える。だけれどそれは、やらない理由にはならない。
    「やれますからね、僕は」
     ナナミが、ジョウイが信じてくれなくても僕は僕の意思でちゃんと動く。ハイランドに負けるなんてもうまっぴら。逃げるのももううんざりだ。シュウさんが僕を必要としてくれるんなら、僕は僕の意思でもって彼の掌の上で踊ってやるんだ。
     ビクトールさんは僕を見つめ、頭でも撫でるつもりだったのか手を伸ばして止めた。行き場のなくなった手をさ迷わせた後に自分の頭に置き、困ったようにかきまわした。
    「……無理すんなよ」
    「無理なんかしませんよ」
     そしたらナナミに心配をかけることになる。そんな本末転倒なこと出来るものか。そう言えば、ビクトールさんは困った顔のまま、それでも頷いてくれるのだ。
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