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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    唐突に暇な日に二人で出かけるビクフリ(未満) 03.27に書いたのの続きのイメージ。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-06-01


     明日は暇な日だ、とフリックがぽつりと言った。何度かスケジュールを確認し、軍師にお伺いまで立てて、確定した事実。
     このノースウィンドウで兵をあげてからこっち、やれ訓練だ、やれ部隊の編成だ、やれ護衛だ偵察だ暗殺だ、と忙殺されていたのだが、やっと人手が増えて引継ぎまできちんと終わった結果というわけだ。
    「暇な日」
    「午前中にちょっと確認事項があって、昼前にはまるっと一日空く」
     適当に見繕ってきた肴とそれぞれが好きな酒を間に置いた二人きりの部屋。最初からそう飲むつもりもなかったらしいフリックは、寝酒代わりの強い酒をグラスの底に滑らせる。
     二杯目を注ごうとしていたビクトールは、すこし悩んでその手を止めた。
    「なにか予定は決まってんのか」
    「何にも。昼過ぎに急に気づいたんだ」
     今まであんまり忙しくて、まるっとあいた休日なんて贅沢は存在しなかった。悲しい身の上はビクトールとて同じこと。昼からずっとフリーなんて、自分は一体何をしていたかうすぼんやりとしか思い出せない。
    「遠乗りにでも行こうかなって」
    「良いな」
     ここが故郷のビクトールは当然として、部隊を率いるフリックもこのあたりの地理には随分と精通している。だが、軍事的な面を抜きにして、ただ気持ちのいい場所だけを求めて草原を駆けるのは格別の快がある。
     明後日には仕事があるからそう遠くまで行けるわけではないが、だからこそ降ってわいた休日の予定としては最善の選択のように思われた。ビクトールはグラスに残ったワインをなめながら、遠くのほうを指さして見せる。
    「そこの川をずっと遡ってな、山が見えてくるあたりに大きな木があるんだ」
     軍事的には価値のない場所だからこの軍の人間は殆ど知らないはずだ。フリックも、どこの事か分からずに首をかしげる。
    「遠乗りにはちょうどいい距離だし、昼寝をするにも静かで良い」
    「場所がピンとこないな」
    「心配ねえよ。俺も一緒に行くから」
     さも当然のように言って笑ったビクトールに、フリックは渋い顔をして見せた。自分が忙しいのはもちろんのこと、ビクトールとて同様のはずだ。
    「お前は休みじゃないだろ」
    「お前が暇になり始めてんのに、どうして俺だけはいつまでも忙しいと思ってんだよ」
     騎兵を率いる事が出来る人間と比べて、歩兵を率いる事が出来る人間のほうが単純に多いのだから、仕事量はビクトールのほうがもう少し早く楽になってきていた。それに気づかない程、フリックが仕事に追われていたという事だ。
     突然半日空けるぐらい、大した話ではない。ビクトールが随分と優し気に笑うのを、フリックはわずかに眉を寄せて、斜めに見やる。
    「久々の休みを、お前と?」
    「とっておきの昼寝場所を教えてやるって約束しただろ」
     軍を立ち上げた直後、寝る間もなかった時期の話を持ち出されて、フリックは視線をさ迷わせる。明らかに忘れているその態度に、ビクトールはただ笑った。
     別に本心から嫌だ、と言うのならばフリックはにべもなく断る事をビクトールは知っている。だからこれは単なるじゃれあいだ。
    「お前ばっかり休むなんてずりぃじゃねえか」
    「お前の休みを奪って休んでるわけじゃないけどな」
     わざとらしく眉を寄せ難しい顔をしていたフリックは、勢いよくグラスを干した。正面に戻ってビクトールを見た時には、もう明日の休みを楽しみにする子供と同じ顔をしている。
    「レオナ、弁当作ってくれるかな」
    「昼前か。ちょっと微妙じゃねえか?」
     いつ出発できるのか、昼飯と夕飯は。気やすい相手との休日の予定を立てるなんて、楽しいばっかりだ。

     主要な街道からは大きく外れた場所に、大きな樫の木が立っている。村々からも少し距離があり、手入れの悪い細い道が遠く離れたところに一本通っているだけだ。ビクトールもノースウィンドウにいたころ、さぼり癖のある年長者から話を聞かなければこんなところは知らなかっただろう。
     相性の良い乗り手と心地よくここまで走ってきたフリックの愛馬が遠くで草を食んでいる。ビクトールが乗ってきたほうはやはりどこか不満げに彼女へちょっかいをかけていたが、それも見ている内に収まるところへ収まったようだ。
     ただし、それを見ていたのはビクトールだけ。フリックはと言えば、結局ハイ・ヨーのレストランで仕入れた弁当も食べずに、樫の木に頭を預けて眠り込んでいる。無意識に張りつめていた緊張の糸が、誰も、ビクトール以外の誰一人いないこの状況でぷつりと切れてしまったのだと、ビクトールは理解している。
     小さく穏やかな寝息と柔らかな風が木の葉を揺らす音だけが、今この場の全てだ。
     フリックの隣で胡坐をかいたビクトールは自分の弁当を広げ、だがすぐさま箸に手を伸ばさなかった。
     無防備に疲れた顔をさらしているフリックの身じろぎに対し、肩を枕代わりに差し出した。箸の代わりに薄い肩に手を伸ばし、そっと力を籠める。
     ビクトールの力に逆らわず、肩に頭を乗せたフリックはそのまま目を覚ますこともなくただ、安堵したように力を抜いた。寝息がより近くなる。
     吸って吐くリズムが安定するのを待って、ビクトールは極力体を動かさないように広げた弁当をゆっくりと食べ始めた。
     
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