流れ星は月を縛った「藍湛、俺はもうすぐ死ぬ」
魏無羨が突然言い放った言葉に、藍忘機の鼓動の方が止まりそうだった。
「俺、月なんだよ。もうすぐ新月だから仮死しちまう。その前にあの猛獣をなんとかしよう」
「分かった」
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屠戮玄武は無事討伐できたが、閉じ込められてしまった。
魏無羨の動きが少しずつ鈍くなっていることに気付き、藍忘機は声をかけた。
「魏嬰、私と番になろう」
「藍湛お前まで頭打ったのか?」
「私は本気だ」
星である藍忘機と番えば魏無羨は新月が来ても仮死しなくなる。
だが、番ということは夫婦になるということだ。それを潔癖で、しかも魏無羨が嫌いな筈の藍忘機から提案されて、流石の魏無羨も口が回らなかった。
「藍湛、流石にそれは2人で勝手に決めて出来ることじゃないだろ? 藍先生だって血を吐くぞ」
「私では嫌なのか」
藍忘機が唸るように言い、先日の噛まれた事を思い出した魏無羨は震えた。
藍湛と番に……
嫌じゃないけど……
魏無羨の口の代わり胸の音が忙しなく動いている。
どう答えるのが正解なのかわからないが、まるで欠けた三日月は満ちることを求めるように疼いている。
「月を見せて」
魏無羨はゆっくり下を脱いだ、太腿の付け根に大きく浮かぶ三日月に藍忘機は息を呑んだ。
「藍湛、お前泣けるのか?」
「君は見ただろう」
焦りすぎて言葉を誤った。確かに先日、藍忘機は泣いたのだ。
藍忘機は唇を噛みながら目を見開いた。
ようやく一滴の水が現れると、魏無羨の太腿に顔を埋めた。
「んん——ッ!」
魏無羨は気持ちよくて身体を動かしたいが、動けば藍忘機の頬に自身のソコが触れてしまう。
魏無羨は必死に足を開き、藍忘機の涙を受け止めた。
「藍湛、もう後戻りはできないぞ」
「うん」
不思議な感覚だった。
優しい気持ちに包まれて、その後なにも変化はなかった。
「藍湛、俺達本当に番になれたのかな。俺なんだかもう目を開けていられない」
「ゆっくり休んで」
「膝枕してよ、一応夫夫だろ?」
「寝なさい」
「意地悪」
いつもとは違う、新月の夜。
鼓動が弱まり息が苦しくなることもない。
地面の上でゴツゴツはしてるが、その硬さも感じられる安堵感。
ああ、俺……本当に藍湛と番ったんだ——
その日見た夢は幸せだった。
『藍湛、夢の中だと膝まくらしてくれるのか?』
『……寝なさい』
『夢の中の藍湛さん、お願い頭撫でて? 凄く痛いんだ』
『ここ?』
『うん! ねえ藍湛、お腹も撫でて? 夢の中だから、甘えてもいいだろ?』
『起きていても痛いと教えてくれないと分からない』
『嫌だよ。そんなの格好悪いもん。ねえ、藍湛。口づけて? そしたら俺元気になるよ』
魏無羨は夢の中の優しい藍忘機を怒らせたくて言ったつもりだった。
しかし、藍忘機は耳を真っ赤にしながら本当に口づけたのだ。
驚いて固まる魏無羨に何度も細やかに優しく。
魏無羨は何故か嬉しくなって、吸い返したら藍忘機は離れてしまった。
悲しくなって藍忘機の手をぎゅっと握ったら、優しく握り返してくれた。
本当に幸せな夢だった。
「藍湛、お前なんで座禅組んでるんだ」
藍忘機は何も答えず目を瞑っていた。
新月の日にこんな穏やかな目覚めは久方ぶりだ。
第二の性が現れ、初めて仮死した時の恐怖。
硬直した身体を慣らす苦しさ、息の吸い方が辿々しくガラガラな声。
ああ、本当に藍湛と番になったんだ。
「なあ、藍湛。そんな深刻な顔をしてやっぱり後悔してるんだよ」
「してない」
強く返ってきた言葉に魏無羨は嬉しくなった。
すこしヒリヒリした唇を撫でると先程見た夢を思い出す。
藍湛の唇、柔らかかったな。本物も柔らかいのか?
疑問に思えば思うほど、藍忘機の口にしか目がいかなくなり、魏無羨は強く頬を叩いた。
「いってぇ!」
「何をしている」
「頭がガンガンする……」
「あれだけ強く叩いたら痛くもなる」
頭が痛くて仕方がなく、魏無羨はゴロゴロと転げ回った。
「静かにして」
「静かにしてもらいたいなら、お前が話すか歌ってくれ」
藍忘機は少し考えた後、本当に歌い出した。
まさか本当に藍忘機が歌うと思わず、魏無羨は静かになった。
「……いい曲だ」
心地よい声、静かで優しい旋律——
「藍湛この曲、なんて名前?」
藍忘機は歌うのをやめてゆっくりと振り向き、答えた。
だが、魏無羨は急に耳鳴りが酷くなりその声が何故か聞こえない。
頭の痛みが抑えきれなくなり、魏無羨は再び意識を手放した。
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目覚めた場所は蓮花塢だった。
「俺、帰ってきたんだ……藍湛は?!」
「あいつなら姑蘇に帰ったぞ」
江晩吟は何を当たり前のことをという顔で返事をした。
「なんで?!」
「寧ろなんで蓮花塢にくるんだ。それより、新月は大丈夫だったのか? 藍忘機には知られてしまったんだろ」
江晩吟の言い方はキツかったが、そわそわと心配しているようだった。
藍湛は何も告げずに帰った。
自分と番ったのに。
いや、寧ろ番ったのも夢だったのかもしれない。
もし夢だったら……
「俺死ぬほど恥ずかしい!!」
「ようやく気づいたか。お前は死ぬほど恥ずかしい奴だよ」
そう騒いでいる2人の元に江楓眠がやってきて、夢か現実かの答えを知った魏無羨が顔を頭を抱え、江晩吟が固までそう時間はかからなかった。