借りぐらしの始まり兄貴がアジトに忘れ物するなんて珍しい。しかもターゲットの事を事細かに纏めた資料だ。目を通しただけで覚えるような男ではないから、とリーダーが届けに行こうとした所をオレが名乗りを上げた。
リーダーがその事を兄貴に携帯で伝えると電話越しに不機嫌そうな声が聞こえた。
オレがアパルトメントに到着すると連絡を受けていたプロシュート兄貴が玄関の扉を開けた。
ドアの向こうで兄貴は息が上がってたけど大丈夫なのかな?
折角来たんだから入れと言われ断る事も出来ずにお邪魔する。
っていうか上がってから気付いたけれど。
リビングは質素なもので台所も調理器具があんまない。
そしてキッチンの済みにはいかにも慌てて詰め込んだらしきピザの空き箱が入ったゴミ袋の山。
「兄貴、ちゃんと自分で栄養のある飯作って喰ってるんすか?」
「あ?人の部屋に上がり込んどいて言う事はそれか?」
兄貴の眉間の皺が深くなる。お、怒らねぇでくれよぉ!
「お、オレは心配なだけですよぉ!それに兄貴、洗濯物だってどうしてるんすか?」
「何でお前がそんな事を気にするんだ」
資料を震える手で差し出すと兄貴は面倒そうに受け取りながら返した。質問に答える気はねぇらしい。
「だ、だってオレは舎弟だしそれにっ、」
口篭るオレに、兄貴は腕組みしながら溜息混じりに安っぽいソファーへどっかりと座った。
「オレ達は仲良しクラブじゃねぇんだ。オメーはよぉ、そうやってチームの他の奴等の私生活にも首突っ込む気か?」
ぎろりと睨まれオレは身が竦み上がりそうになった。
やっぱり兄貴っておっかねぇ。
「オレはただ兄貴に自堕落的な暮らしをして欲しくねぇだけだよ」
すると兄貴は鼻を鳴らし吐き捨てるように返した。
「ペッシペッシペッシペッシよぉ~。オレはギャングなんだぜ。生きるのに必死にしがみつく連中とは違う。殺すか殺されるかの世界だ。いつくたばってもおかしくねぇ。いつ死んだっていいんだから生活能力なんか必要ねぇだろうが」
へ、屁理屈だ……。でも兄貴がそこまで言うならオレにだって考えはある。
「オレ、兄貴の身の回りの世話しやす」
「――は?」
兄貴が箱から取り出そうとした煙草が指の間からぽろりと落ちた。
「おめぇそこは普通『こんなだらしねぇなんて思ってた兄貴像と違う』とか落胆する所だろうが」
「そういう所も含めて兄貴は兄貴だろ!」
「ふざけんな!お前ギアッチョとメローネのシェアハウスを間借りするってこの間決めだだろうが!」
机を叩いて立ち上がる兄貴は怖いけれどここで引き下がる訳にはいかねぇんだ。
オレは兄貴を無視してずかずかとクローゼットを開けると干しっぱなしで皺だらけの大量のシャツを掴んだ。
「と・に・か・くっ!!オレはここにある服のアイロン掛け終わるまで帰りませんからね!」
兄貴は舌打ちと共に勝手にしやがれと再びソファへ沈んだ。
後で事情を皆に打ち明けたら、押しかけ女房とは隅に置けないなとからかわれたりしちまったけどな。