不器用な看病「ほら、レモネードでも飲め」
目の前に差し出された黄色い飲み物にぼんやりする頭のまま要らねぇと俺が答える。
「おい、風邪ひいてからお前録に何も食ってないじゃねぇか。せめて消化のいいモンでも腹に入れろ」
タンジェリンは甲斐甲斐しく兎の形に皮を剥いたオレンジを出てきたが今は全く食欲がなかった。
「後でな」
鉛のようにだるくて重い体のまま寝返りを打つ。
体温計の電子音が鳴るとタンジェリンは俺のパジャマの襟へ手を突っ込みそれを取り出した。
「全然熱が下がってねぇぞ。ちゃんと薬飲んだのか」
心配してくれているんだろうが今の俺にとっては『余計なお世話』だった。
「俺へのお節介はいいから着替えだけ置いて部屋を出て行けよ」
「どうしてだよ」
あからさまにむっとして納得いかないと言いたげな様子のタンジェリンに俺は溜息を吐く。
「風邪が移るだろ」
「俺は馬鹿だから風邪ひかねぇんだよ」
「意味分かんねぇよ」
「日本じゃバカは風邪ひかねぇらしいぞ」
「ここはシチリアだろうが」
「いちいち細けぇんだよお前は」
そんな不毛なやり取りを繰り返すのも面倒になった俺はベッドへ横になったままタンジェリンを睨み上げた。
「いいか、トーマスだってペンキが剥がれてきたら塗り替える。お前は俺の素っ裸を見たいのかよ?」
タンジェリンは幾度か瞬きを繰り返した。
心外だ、という風にも取れるし、それもそうだ、という風にも見える。
「けどお前、体起こすのもしんどいんだろ。手伝ってやる。俺だってたまには頼って欲しいんだよ」
返ってきた答えは意外なもんだった。
風邪のせいか実は気が弱ってかなり精神的に参ってた俺にとって本当はその言葉は嬉しかった。
だが、コイツに礼を口にした所で付け上がるか調子に乗るだけだ。
「はぁ…マンモーニかよ俺ぁ…」
ウェストハム・ユナイテッドの応援歌を呑気に歌いながらパジャマの釦を外していくタンジェリンに、まるで抱かれるみてぇだなと邪な心の呟きを無理矢理描き消す。
頬が熱いのはきっと、この熱のせいだ。