Dream「兄貴、ねぇ兄貴ったら!」
ペッシの声で我に返る。
オレとした事が列車に乗ってぼんやりしちまうなんてらしくねぇ。
…って、おい。
「おいペッシ。何だそのザマは?」
「へ?」
ペッシが首を傾げると同時に頭にくっ付いた兎の耳がぴこぴこ動く。
――可愛いじゃねぇか、と言いそうになったのをぐっと堪えた。
「へ?じゃねぇだろ。ふざけた格好しやがって、ええ?」
「ふざけた、って兄貴がこんなウサ耳オレに付けさせたんじゃねぇかよぉ!兎のアイテムを持った乗客は切符代が割引になるキャンペーンって聞いて、真っ先にメローネから借りてたじゃねぇですか!」
は?そんな事あったか?覚えてねぇ……だがそう言われると確かにメローネから兎のカチューシャを借りた気がするッ!
「そりゃ悪かった。ハン!それにしてもマンモーニにはお似合いだぜそれ」
「も~!オレよりも外の景色見て下せぇよ!富士山ですぜ!」
確かに車窓からは見事な富士山が見えた。
斜め向かいの席にはスリーピースのスーツのイギリス人っぽい男とデニムジャケットとジーンズを着た恰幅のいい黒人の男が、俺達も兎の足のキーホルダー持って来れば良かったなと話しているのが聞こえてきた。
オレ達とは似ても似つかねぇのに、不思議とそいつらの事が気に掛る。
「兎の足ってのは確かに幸運の象徴だ。お前の場合本物を俺に寄越しそうだけどな」
レモン、と呼ばれた男が気怠そうに口を開く。
「は?俺が無駄に動物を殺生した事あったかよ?」
タンジェリン、と呼ばれた男がレモンに苛立った口調で返している。
「ねぇな。だが、犬であれ猫であれお前は俺に動物が懐いていると物凄い形相で睨むだろ。あれやめろよ」
「嫌だね。相手が畜生でも蹴り飛ばさないだけでも立派だと思え」
そんな時だった。
「お弁当はいかがですか?」
にこやかに車内販売の女が声を掛けてきた。ペッシは嬉しそうに2人分頼んで金を払っていた。
「兄貴!中に茄子を鷹の爪で煮た甘辛煮入ってますぜ!」
嬉しそうにニコニコするペッシにつられちまいそうになって俺は不意に脳裏へ疑問が過ぎる。
あまりにも出来過ぎてる。
さっきから、色々な事が。
――次の瞬間、オレは目が覚めた。
現実に引き戻され、あまりにも頓珍漢な夢に溜息を吐く。隣では兎耳のパーカーの付いたパジャマに身を包んだペッシがすやすやと眠っていた。
無防備な寝顔に相変わらずホルマジオのセンスはどうかしてやがると呟いた。ペッシと一緒に服を買いに行かせると何故かそういうやつばかりあの野郎は選ぶ。オレに服選びをさせろと脅したらホルマジオは飄々と『オメーに任せると無駄に金を湯水みてぇにペッシの為に使うだろ』と答えやがった。
それにしても、何で富士山なんだ。どうして茄子の鷹の爪和え甘辛煮なんだ。
確か、ジャポーネの文化に詳しいイルーゾォが正月に見る初夢で縁起のいいモンが富士と鷹と茄子だってドヤ顔で語っていたな。
ペッシと出逢う前のオレなら縁起なんてオレには関係のねぇもんだと鼻で笑ってただろう。
だが、共に栄光を掴めると信じられる運命の半身が出来た。だから、夢を見る事すらなかったオレが夢を見たんだろう。
「まぁ、なんだ。今年も宜しくな、ペッシ」
どうせ聞こえてはいねぇだろうが、耳元で低く囁く。むにゃむにゃと口を動かすペッシはまるで兎みてぇでつい頬が緩んだ。