小悪魔ランジェリーチャレンジ!最近ご無沙汰なんじゃねぇの、と突然ホルマジオから揶揄されたのはアジトで兄貴の帰りを待っていた時だった。
「ご無沙汰って、何をだい?」
すぐに意味が分からずオレが首を傾げてると鏡から上半身を出してイルーゾォが会話の輪に入ってきた。
「つまり、プロシュートとはちゃんと恋人らしい事してんのかって事だよ」
「ふえっ!?」
俺は驚いてミルクの入ったグラスを落としそうになった。
暗殺チームの中でオレと兄貴の関係は公然公認(というかオレは隠そうとしたのに牽制の為だと兄貴が皆にバラした)な訳だけど、どうしてそんな下世話な事を聞いてくるんだろう。
「今日だってよぉ。任務の為にデートの予定キャンセルしたんだろ?」
ギアッチョはサッカーの試合を退屈そうに眺めながらオレへちらりと視線を寄越してきた。確かに兄貴は今オレだけでも出来る仕事だからと単独で標的の元へと向かった。ターゲットの追跡はベイビィ・フェイスの息子がやってるから終わり次第連絡が来る筈なのに先程からメローネは微動だにしない。
「プロシュートに限って倦怠期などないだろ」
リーダーがメンバーを窘めるように言ってくれたけれど、オレは急に不安になっちまってメローネに助けを求めた。
「メローネ、もしかしてオレ、兄貴に飽きられちまったのか?」
「う~ん、それは多分ないとは思うが」
少し考え込んだ後メローネは親機から顔を上げた。
「夫婦でも恋人でも別れの原因は性格の不一致若しくはセックスレスという説もあるからな」
オレは息を飲んだ。そう言えば兄貴と最後にしたの、いつだったっけ。
「ど、どうしよう…オレ…」
「しょうがねぇなぁ~。イルーゾォ、メローネのクローゼットにある悪趣味コレクション持ってきてやれよ」
「チッ!ペッシの為なら許可してやる!」
「オイオイマジかよ。ペッシ、今から覚悟しとけよ」
あれよあれよという間にオレを置いて話が進んでしまう。
リーダーからは頑張れよと肩に手を置かれたけれど嫌な予感しかしねぇ。案の定オレに手渡されたのは黒い女物の下着だった。しかも悪魔の羽根と尻尾付きのやつだ。
「何これやだよこんなの履くの!」
「そうかい?ペッシならディ・モールト似合いそうだ」
いつものテンションで返すメローネに絶句する。
「まぁ、試すような行為をさせんのは可哀想だが、ペッシだってプロシュートの気持ちを確かめてぇんだろ」
唯一同情してくれたギアッチョですらそんな事を言い出してオレはホルマジオとイルーゾォに救いを乞う眼差しを向けたオレに。
「ま、上手くいけば万々歳じゃねぇか」
「寧ろそれをペッシが着ても欲情しねぇようなら俺達全員でプロシュートをぶん殴るから安心しな」
あ、安心できねぇ……。
――で、結局オレは小悪魔ランジェリーなるものを着て兄貴の帰りを待つ羽目になった。律儀に着用する必要なかったとオレは後悔した。あまりに布面積が小さ過ぎる。
男を誘う格好としては最高だろうけどオレみてぇにガタイがいいたけで不細工が着た所で罰ゲームみたいなもんだろ。
やっぱり着替えようと小悪魔ランジェリーを脱ごうとした瞬間。どさりと玄関で物が落ちる音がした。
慌てて玄関へ引き返すとそこには床に買い物袋を散乱させたまま目を見開いて立ち尽くす兄貴がいた。
「ぁ、お帰り兄貴……」
オレは恥ずかしさからいつも通り振舞おうとした。
すると兄貴は盛大に溜息を吐く。
「ペッシペッシペッシペッシよぉ~。何だそのザマは、え?」
や、やっぱり怒ってるよな兄貴?っつうか呆れられてる?
ああ――こんな格好するんじゃなかったぜ。
穴があったら入りてぇ!
「えっ、えっとぉ、これには色々事情があって、」
しどろもどろになるオレにプロシュート兄貴は徐にヘリンボーン柄のジャケットを脱いだ。
「これ着てろ。目に毒だ」
そ、そうだよな。兄貴はオレがこんな格好してても反応に困っちまうよな。
「兄貴――ごめん」
目の前が滲む。こんな風に誘ってその気にさせようとした魂胆なんて兄貴はきっとお見通しなんだろう。
「……ペッシ。風呂から出たらそれをまた着ろ」
けれど、兄貴から飛び出した言葉は意外なものだった。
「えっ?」
「その時ちゃんと脱がしてやるからな。いい子でベッドで待ってろよマンモーニ?」
唇の端を上げる兄貴にオレは一気に頬が熱くなって俯いた。
「うっ、うん!待ってるよ兄ィ!」