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    陽炎@ポイピク

    ジョジョ5部プロペシメインです。パソコンもペンタブもないので携帯撮り&アナログ絵しかうpしません。
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    陽炎@ポイピク

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    ®️®️®️ラマアク
    cp色は薄め
    Dosti期間中のやり取り

    #ラマビム
    ramabim

    其れは甘い砂糖のように華やかで上品な香りのセイロンシナモンを丁寧に4つに手で折る。
    カーダモンは莢から黒い種子だけを取り出して、すり鉢で潰す。クローブはそのまま使う。鍋の湯が沸くまで強火にし、沸いたら中火にする。スパイスを鍋に入れて、カーダモンは莢も一緒に加える。
    こうして湯が茶色になるまで煮出せばスパイスの香りが台所へ広がる。
    刺激の強いスパイスは多過ぎても少な過ぎてもいけない。
    一旦火を止めて茶葉を加えたら、牛乳と砂糖を加えて再び煮立たせる。素朴な味が好きなアクタルは牛乳たっぷりの砂糖控えめな方が好きだが、子供じみてると笑われたが私は甘ったるく砂糖を多めにしたチャイの方が好きだ。
    その甘い味はかつて心優しい母が作ってくれたもので。
    過去のほんの少しだけ幸せな記憶に浸っていたら鍋から煮立った牛乳がほんの少し零れてしまう。だが、チャイを淹れる時にミルクが零れるのは幸運の兆しとされる。
    茶葉と牛乳と砂糖の混じった香りが鼻を擽る。
    その時だった。聞き慣れた扉を叩くリズムの音。
    ……ほら、幸運は訪れてくれた。
    鍋の火を止めてドアを開けるとアクタルが「バイヤ(兄貴)!」と屈託のない笑みを浮かべていた。
    「アクタル!丁度いい所に来てくれたな」
    手招きしながら人懐っこい彼を家の中へ迎え入れる。
    孤独だった私の唯一のささやかな楽しみ。
    其れは、アクタルと会える時間だ。
    「兄貴から甘い匂いがする」
    すん、と香りを嗅ぐ仕草は動物のようで私は思わず笑みが零れる。
    アクタルは不思議な青年だ。
    運命的な出逢いを経て私は彼と親友になった。敬虔なムスリムなのに大食漢で、バイクの修理のように私の懐中時計もあっという間に直す青年。そこまで器用な癖に奥手な所もあるのが微笑ましい。最近はようやくジェニーとも親しくなれたようだ。
    アクタルは、使命の事を考えて心が押し潰されそうになった時も、陽だまりのような温かさで伸し掛る重圧から守ってくれる。
    彼の存在に私は置かれてる立場の苦しさからほんの少しだけ解かれた気がしていた。
    「チャイを淹れていたんだ。出来たてだから、折角だし飲んで行くかい?」
    「いいのか!?」
    星のように煌めく瞳が眩しい。
    人を疑うような事も無い純粋無垢な眼差し。
    「おれも兄貴と一緒に食べようと思って持って来たんだ。ジェニーから貰った『スコーン?』というイギリスの菓子だ」
    「ああ、頂こう」
    私は茶漉で湯気の立つチャイを濾してカップへと注ぐ。
    そわそわと床に座るアクタルへ零さないようにカップとソーサーを差し出した。
    アクタルは幼子のようにふうふうと熱いチャイを息で冷ましてゆっくりとカップを傾ける。ごつごつとした手にティーカップは酷く小さく似つかわしくなかったが、食べる時の行儀の悪さからは想像も付かない気品のある持ち方をしていた。
    「やっぱり兄貴の淹れるチャイは美味い!」
    にこにこと素直な感想を口にするアクタルに私は褒め過ぎだと返した。私にとってチャイはミタイと同じで辛い過去や、背負う大義を一瞬だけ忘れさせてくれるものだった。
    それなのに、アクタルはいつだって私のチャイを賞賛する。
    「もし興味があるなら今度教えてやろうか?」
    「お、おれがやったらきっと鍋を焦がしちまうよ」
    アクタルはバイクの修理だけでなく色々と器用にこなせるのでその言葉は意外だった。
    「何だアクタル、君は火が怖いのか?」
    アクタルは視線を左右に泳がせていた。
    無理に聞き出すのも良くないな、と自戒していると、アクタルはいいんだと頭を左右に振った。
    「子供の頃、コンロから炎が出る仕組みが気になって指を突っ込んじまった事がある。そん時俺は火傷を負った」
    髭を爪で掻くアクタル。君らしいなと私は幼いアクタルの姿を想像した。君の少年時代は今とあまり変わらないのだろうか。それとも、私の弟に似て、くるくるとした長い巻き毛と純真さを象徴するような丸い目をしていたのだろうか。
    いや……彼にかつての弟を重ねてしまうのはアクタルに失礼だ。あまりにも純朴な性格は弟とは似ても似つかない。
    私の弟はとてもやんちゃで、シータも巻き込んで良く追いかけっこをした。それで培った足の速さがまさか警察になって生きるとは。
    「案外君も苦手なものがあるんだな」
    私はスコーンへと手を伸ばす。さっくりと焼かれたスコーンはバターの良い香りがした。甘ったるいチャイに良く合う。
    「兄貴だってあるだろ?苦手なもんが」
    アクタルの問いに私はカップに伸ばしかけた手を止めた。
    アクタルにはどこまで自分の事を話してもいいだろうか、と無意識に手探りする心に痛みを覚える。
    私は――故郷に武器を届けるべく敢えて英国側の警察官になった。
    村人全員が銃を手にすれば、そして解放戦争を起こせば、アクタルも傷付かずに済むと信じた。銃弾の真価を示せば白人達は永遠にこの国を去る筈だ、と。
    だが現実は、褐色人という理由だけで昇進もままならず同胞すら痛めつけて目的の為に差し出す日々だ。今の私はただの英国の飼い犬だ。悪魔に魂を売った服従者だ。
    そんな私を曝け出したらアクタルはきっともう二度と私を兄と慕ってはくれなくなるだろう。
    分かっている。私はとうにミルクと砂糖ではなく血と火薬の匂いに染まってしまっている。
    アクタルにだけは、知られる訳にはいかない。
    「そうだな。私は水が……怖かった」
    それでもアクタルの前ではすんなりと過去を打ち明けてしまう。彼は私を本のようだと喩える。自ら開く事がなく、開いた瞬間、真っ白だったページに物語が紡がれていくようだ、とも。
    頑なに閉じた本を開いてみせてるのは君だと云うのに。
    「どうしてだ?水は恵を齎すものだ」
    投げかけられたのは純粋な疑問だった。
    「ゴーダヴァリ川で遊んでいた時に足をつってしまって溺れかけてしまった事があったんだ」
    其れは偽りではなく本当に経験した事だった。ただ、溺れそうになったのは私ではなく弟だ。
    アクタルと共に川へ取り残された少年を助けたのも弟のように水に沈む姿を見たくなかったからだ。
    あの子の事を隠したかった訳では無い。
    話してしまったら、辛くなる気がした。
    「兄貴が無事で良かった」
    自分の事のように胸を痛める真っ直ぐな眼差しに私は弱さを吐露してしまいたくなる。いっその事羊飼いを捕らえる為に協力して欲しいと言えたなら楽になれるのだろうか、と。
    私は言葉と一緒にチャイを飲み込んだ。
    「そうだな。もし死んでいたら君にも出逢えなかった」
    私は目的の為にこの命を燃やす。父やシータに誓った約束は果たさねばならない。迷いなどとうに捨てたつもりでいた。
    だが、『星(アクタル)』が業火に焼かれそうな私の心に慈愛の雨を降らせてくれた。
    アクタルと過ごす甘美な日々はたっぷりの砂糖を溶かしたチャイのようだった。少年の頃のように、親友として他愛のない事で語らい合い。時には兄弟のように、力を競い合う。
    そんなかけがえのない日々を過ごしていると、果たすべき使命を忘れてしまいそうになる。
    不意に、頬へ伸ばされた手が触れてきた。
    「もしまた水の中に落ちて溺れそうになったら」
    「うん?」
    「今度はおれが必ず兄貴を助ける」
    力強い言葉と共に夜を彷彿させる瞳が三日月を描く。
    「アクタル」
    誰よりも優しく勇気があり強い精神を持っているアクタルならばきっといとも容易く出来るのだろう。
    「どこに居ても、何があっても、兄貴を救ってやる」
    私は目頭が熱くなりそうになる。その手を掌の中へ包んだ。
    「――ありがとう、アクタル」
    不意に顔を上げると満足気な表情を浮かべるアクタルの髭に食べ零しのスコーンの欠片が引っ掛かっていて思わず吹き出した。不思議だ。君と居ると私は笑う事が出来る。
    息をする事が出来る。
    疲れを取る為だけだったチャイも美味しく感じる。
    世界に彩りが溢れてると気付ける。
    此れが幸せならば、出来る限りでいいから続いてくれと祈りにも似た願いをしてしまう。
    そして、アクタルも同じ事を望んで欲しいとも。
    きっと其れは甘い砂糖のように掴んだ瞬間指の隙間から零れ落ちるものだ。
    それでも、私は手を伸ばさずにはいられない。
    このひとときが、終わる事がないようにと。
    そんな私の心の声は立ちゆく湯気と共に消えていった。
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