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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    POIPOI 63

    BORA99_

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    ドフ鰐
    往来の真ん中で痴話喧嘩するドフ鰐が書きたかった。
    ※捏造多数
    ※ご都合主義

    政府の飼い犬VSフダツキのワルズルリ、ズルリと、嫌な音がした。
    何かが這い回るような、重たい音。
    深夜の街外れということも相まって、自分以外誰も居ないその空間に響く、不気味な衣擦れの音に、クロコダイルは葉巻を咥えたまま振り向いた。
    「・・・に、・・・で、」
    蚊の鳴くような声と、土の地面を這いずる男の姿に、流石のクロコダイルも怪訝そうに顔を顰める。
    必死に、こちらに向けて腕を伸ばす男の顔に、凡そ見覚えは無かった。

    「"奴ら"に、渡さないでくれ。」

    厚く掛かっていた雲がちょうど晴れて、月明かりが男を照らす。
    真っ赤に濡れた口元、ズルズルと体を引き摺った地面には、血の跡が続いている。
    その片脚は、見るも無惨に千切れていた。
    悲鳴を上げる程でも無いが、無視出来る程、小さな出来事でも無い。
    黙って男を見下ろすクロコダイルに、彼は震える腕で何かを押し付けてきた。
    「頼む・・・。"クロムウェル"が、」
    突然、まるで、糸が切れたように、男は地面に倒れ込む。
    止まった心臓と、男の手のひらから溢れ出た小さな"封筒"。
    それから、
    (・・・海軍の、勲章か。)
    やっとしゃがみ込んで、クロコダイルはその手のひらから封筒と、見慣れぬバッジを拾い上げた。
    封筒を開けてみると、小さな鍵とメモが入っている。
    一度、考えるように瞳を細めたクロコダイルは、コートのポケットにそれらを突っ込んで、転がった死体はそのままに、ゆっくりと歩き出した。
    (・・・クロムウェル。)
    死ぬ間際の言葉にも、全く聞き覚えは無い。
    その歩みは止めずに、クロコダイルは大きく吸い込んだ葉巻の煙を吐き出した。

    ######

    「ドフラミンゴ!!!ドフラミンゴは居るか?!」
    相変わらず退屈な、"王下七武海"の会合に"元帥"センゴクの大声が響いた。
    いつも通り円卓に着いた、"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、驚いた様子も無く、その長い腕を上げる。
    「いるいる。いるぜェー。なんだ、もう老眼か。」
    「貴様の"ナワバリ"で、また問題だ!!!いい加減にしろ!!」
    怒り心頭のセンゴクは、そのゆらゆらと揺れる大きな手のひらを一瞥してから、バン!!と、円卓に紙切れを叩き付けた。
    「オイオイ、更年期か?仏の名が泣くぜ。」
    「黙れ海のクズが!!これを見ろ!!」
    素直に、その手のひらの下の"チラシ"を見ると、確かにそれは、ドフラミンゴのナワバリの島で行われている、"オークション"のチラシである。
    島の名前は、"デッドマンズ・モーテル"。ブラックマーケットのメッカで、治安は最悪。
    海軍すら迂闊に手を出せない、荒れた島だ。
    「末端の連中がやってる商売まで把握してねェよ。暇じゃねェんだ。」
    「貴様が船長なら責任は取れ、ドフラミンゴ。オークションは即刻中止、"これ"を回収して来い。」
    「あァ?」
    そのチラシに踊る、オークションの"目玉"商品。
    ドフラミンゴは思わず、眉間に皺を寄せた。
    「"ポーネグリフ"の、"写し"。」
    古代兵器復活の手掛かり。歴史の本文。禁忌の石碑。
    それが、"探る"事を、禁じられた"文章"であることは、この世界中が知っていた。
    「フッフッフッ。いつからここは、オカルト研究会になったんだ。センゴク。
    デッドマンズ・モーテルの奴らに出来るのは、"殺し"と、"盗み"だけだぜ。こんな高尚なモン、引っ張ってこれる訳がねェ。十中八九、偽物だろうぜ。」
    「それを確かめる為に、これを回収しろと言っているんだ。つべこべ言わずに従え、若造。」
    "何か"ある。
    ドフラミンゴは目敏くその違和感を掴み、サングラスの奥で瞳を細めた。
    "こんなもの"は、海底のデービーやクラバウターマンと何ら変わらない、たちの悪い、都市伝説である。
    この海のオークションに、一体幾つ、この手の偽物が出回っているのか、"元帥殿"が知らない訳が無かった。
    態々海軍本部が騒ぐ事など、普通ならあり得ない。
    「オーオー、"火消し"に必死だなァ。この世の"正義"は。
    ・・・まァ、いいぜ。最近暇だしな。」
    喉の奥で、嫌味に笑ったドフラミンゴは、さっさと立ち上がって踵を返した。
    肩越しに振り返った"元帥殿"は、随分と、苦々しい顔をしている。
    (・・・"中途半端"な、場所だ。)
    "諦め"が付かないのなら、そんな"椅子"に座らなければ良いだけの話だ。

    ######

    「・・・ボス。何でそんな、呪いの塊みたいなモン拾って来ちまったんです?」
    「人を貧乏性みたいに言うんじゃねェよ。ダズ。道を歩いていたら"押し付けられた"んだ。」
    昨夜、潜伏しているホテルを出て、どこかへ出掛けたまま深夜まで戻って来なかった"ボス"は、血に濡れたアイテムを手に入れて帰ってきた。
    翌朝、ホテルに併設されたカフェで、それを隣に座る"右腕"へ見せたのである。
    運ばれてきたモーニングを、片手で優雅に口へ運ぶ"サー"・クロコダイルに、ダズは思わず能面のような顔を見せた。
    血の付いた封筒、それから、海軍のバッジ。
    ここが、悪党蔓延る最悪の島、"デッドマンズ・モーテル"だということを差し引いても、充分物騒なお土産だ。
    「島全体が"曰く付き"なんだ。あんまり、首を突っ込まない方が良いんじゃねェのか。」
    「クハハハ!"ロマン"を欠いたら、海賊なんざただの悪辣なミーハー集団だぜ。
    瀕死の男が、見ず知らずのおれに、一体何を託したのか、気になるじゃねェか。」
    死んだ男が渡してきた封筒のメモには、簡単な地図が記されていて、恐らく、一緒に入っていた鍵で開く扉がそこにあるのだろう。
    簡素な椅子にゆったりと腰掛けて、クロコダイルは葉巻をくわえる。
    マッチを擦って、火を点けた瞬間、カップに入ったコーヒーが、"奇妙"に、"揺れた"。

    「・・・ダズ!!!!」

    視認するよりも速く、本能が先に体を動かして、クロコダイルは隣に座るダズの襟元を掴んで床に引き倒す。
    その一瞬後に頭の上で轟音がして、カフェのガラス窓が粉々に吹き飛んだ。
    品の無い足音、がなる男の声。火薬の臭い。
    パキパキとガラスを踏みしめて、クロコダイルとダズは体を起こした。
    「居たぞ!!"サー"・クロコダイルだ!!」
    「うちの"オークション"の目玉商品を返せ!!!」
    「・・・あァ?オークション?」
    目の前でクロコダイル達を囲み、銃を構える集団の一人が怒鳴る。
    この島が、定期的にオークションを開いているのは知っていたが、殆ど盗品と偽物であるその品々にうんざりとして、完全に眼中には無かった。
    「昨日、"ポーネグリフ"の"写し"を受け取っただろ?!」
    (・・・ポーネグリフ?あの男がこいつらから盗んで、このメモの場所に隠したってところか。)
    覚えの無い台詞に、クロコダイルは思わず口を噤んで思案する。
    そういえば、落書きだらけの壁に貼られた、オークションのチラシに目玉商品として載っていたような気がした。
    「・・・アーアー、ネタバレしやがって。」
    中身が分かってしまうと、開ける気が失せる。
    クロコダイルはその空気の読めない馬鹿共に、思わず葉巻の煙を吐いた。
    しかも、こんな島に本物の"歴史の本文"が、例え写しでも、あるとは思えない。
    「ボス、どうします?」
    「・・・いちいち聞くな。まァ、目障りなモンは好かねェな。」
    「・・・了解。」
    クロコダイルが言って踵を返すと、切り裂かれたスーツの残骸が床に散って、その腕を反射した光がチカチカと視界の端に映った。
    一つ、気がかりなのは、昨日死んだ男は何の為にそんな"紛い物"を盗み出したのか。
    態々、命を落としてまで、"奴ら"に渡すのを拒んだ理由は何だ。

    (・・・まさか、"本物"の写しだとでも言うのか。)

    クロコダイルは手のひらの中にある、その小さな鍵を見つめた。

    ######

    「・・・わ、"若様"!?何かあったんですか?!」
    「・・・あァ。今日のオークションに出品されるポーネグリフだが・・・、」
    「・・・!!。そ、それが、」
    数名の海兵を率いて、デッドマンズ・モーテルへ急行したドフラミンゴは、傘下の海賊に任せているオークション会場へと向かった。
    海兵達を表に置いて、客入り前の会場に裏口から入ると、ドフラミンゴを見つけた従業員達が驚いたように頭を下げる。
    ドフラミンゴの口から出た、"ポーネグリフ"の言葉に、どよどよとざわめきが広まった。
    「・・・何だ。何かあったのか。」
    「それが・・・昨夜、盗まれまして・・・、どこにあるか探しているところです。盗んだ本人は追ってる間に殺しちまって・・・。」
    「あァ?何だそりゃァ。大丈夫なのか。オイ、今日の顧客リスト見せろ。」
    あまりにお粗末な展開に、ドフラミンゴがため息を吐くと、慌てた支配人が黒いファイルを取り出す。
    "お得意様"が居るならば、失敗は出来ない。
    ドフラミンゴは顧客リストと銘打った、ファイルの表紙を開いた。
    (・・・随分と、"大物"が多いな。)
    四皇に繋がる海賊団、有名ブローカー、"世経"の"鳥野郎"。
    こんな胡散臭い商品に、釣られてくるようなメンツではない。
    「・・・盗んだのはどこのどいつだ。」
    「盗んだっつーか、"取り返された"っつーか・・・。」
    「お前らが先に盗んだのか・・・。」
    今更、"盗みは良くない"などとは言わないが、相変わらず低レベルな従業員達にドフラミンゴは頭痛がする気がして、思わず額を押さえた。
    「"ヘンリー・ハガー"。三日前にこの島に"漂着"した、元海兵の男で・・・。すぐに死にそうだったもんで、別に良いかと・・・。」
    頭を抱えたドフラミンゴに焦った支配人が言い訳がましく言った言葉に、ドフラミンゴはサングラスの奥でひっそりと瞳を開く。
    ("元"海兵の、"ハガー"。)
    何となく、聞いたことが、あるような、無いような。
    ドフラミンゴは頭の中の引き出しを手当り次第に引っ掻き回すが、その名前には辿り着かなかった。

    「ドフラミンゴ様!大変です!!」

    思考の渦に沈んだドフラミンゴを揺り起こしたのは、外で待機させていた海兵の一人。
    「ポーネグリフの写しを盗んだ疑いのある、元七武海"サー"・クロコダイルとオークション従業員が街頭で派手にやり合ってます・・・!!!」
    「あァ?!鰐野郎?!」
    海兵の言葉に、懐かしい響きを聞いて、ドフラミンゴは思わず怒鳴り返した。
    "あの戦争"を境に、目の前から消えた男。
    (・・・あの野郎まで絡んできやがるとは、いよいよ豪華になってきたなァ。)
    ドフラミンゴは顧客リストを支配人に突き返して、足早にオークション会場を出て行った。

    ######

    「全員武器を捨てて投降しなさい!!」
    「アーアー、何だ。海軍まで出張ってくるとは、"茶番"じゃねェってことか?」
    往来の真ん中で、クロコダイルのコートがふわりと翻る。
    銃を構える海兵と、増え続ける刺客を迷惑そうに見てから、新しい葉巻をくわえて呑気に火を点けた。
    "紛い物"にしては、メンツが増え過ぎである。
    おっかなびっくり武器を構える連中に、ギラつく瞳を向けたクロコダイルは、更にうんざりと煙を吐き出して、前触れもなく、ぐらりと仰向けに倒れた。
    「フッフッフッ・・・!久しぶりだなァ、鰐野郎。連絡も寄越さねェたァ、冷てェ野郎だ・・・!!」
    クロコダイルの頭があった場所を、煌めく"糸"が通り抜け、逃げ切れなかった葉巻の先端が切断される。
    地面に倒れ込む寸前で、砂と化したクロコダイルの体が、風に吹かれて古びた建物の屋根に集まった。
    「特に、連絡する必要が無かったもんでな。」
    「・・・あのなァ、」
    バサリ、バサリと、羽音を立てて、現れたピンクの"鳥野郎"に、クロコダイルは心底嫌そうに眉根を寄せる。
    地上に立つドフラミンゴも、不機嫌そうに額に筋を浮かべた。
    「お前いっつもそれ言うけどなァ!必要な時にも連絡寄越した事ねェじゃねェか!!」
    「お前に連絡しなきゃならねェ事なんざ、おれの人生には無かったが?」
    「ありましたー!おれとの約束すっぽかしてアラバスタの国王と飯行った時とか!!」
    「あァ?!あれはテメェが勝手に待ってただけじゃねェか!!おれは行くとは言ってねェよ!!!」
    「ハァ?!何だよそれ!!マジでお前その女王様気質どうにかしろよ!!!尽くされ慣れしやがって!!」
    「おれだって尽くしてやっただろうが!!」
    「尽くされてねェよ!一回も尽くされた覚えはねェ!!」
    「指輪買ってやっただろうが!!テメェは一回も着けなかったけどな!!!」
    「あんなギラッギラの指輪着けられるか!!成金に見えるだろ!!!」
    「テメェはほぼ成金だろうが!!!」

    ((((((いやなにこの痴話喧嘩!!!!!))))))

    屋根の上と下で怒鳴り合う悪党二人に、海軍も、オークションの従業員達も心の中で同じ事を叫んだ。
    今、一体何を見せられているのかも、もう分からない。
    「なんか知らねェうちに知らねェ男連れてるしよォ!鰐野郎の浮気者!!!」
    「だからなんでテメェにいちいちお伺いを立てなきゃならねェんだ!!!」
    クロコダイルの右手に砂嵐が巻き起こり、ドフラミンゴが勢い良く地面を蹴った。
    下で見ていた傍観者達は、繰り出されるその大技に、蜘蛛の子を散らすように走り出す。
    「つーかまずポーネグリフの写しを返しやがれ!!!あれ持って帰らねェとセンゴクの爺にどやされんだよ!!」

    ((((((・・・やっと本題!!!!))))))

    巻き起こった砂塵に突っ込んだドフラミンゴは、チカチカとサングラスに反射する光を感じ、意識を介さぬ神経がその動きを止めた。
    鉤爪の先がドフラミンゴの喉笛を勢い良く空振り、その眼光がサングラスの奥を射抜く。
    揃って地面に着地したその足で、間髪入れずに地面を蹴った。
    「・・・ゲッ!!」
    想定よりも速い動きで懐に飛び込んできたクロコダイルに、ドフラミンゴは思わず口角を下げて呻き声を上げる。
    "近接戦闘"が"得意ではない"と、この男は知っているのだ。

    「・・・"人"に、"銃"を向けるのは苦手かね。ドフラミンゴ君。」
    「・・・そうでもねェよ。」

    "本能"が懐から銃を抜いて、クロコダイルの額に向けている。
    クロコダイルはドフラミンゴの首に鉤爪を当てて、嬉しそうに口角を上げた。
    「・・・"海軍本部"の"元帥殿"まで、この件で騒いでいるとは、"良い事"を聞いたな。」
    「・・・お前の、"そういうところ"、本当に嫌いだぜ。」
    ドフラミンゴが憎まれ口を叩いた瞬間、クロコダイルの胸を貫通し、目の前に"切っ先"が現れる。
    弾けるように砂が散って、クロコダイルごとドフラミンゴを貫こうとした"刃物"は、そのサングラスの少し下の皮膚を抉った。
    「・・・あァ、すまないね。吠えはしねェが、すぐに、噛み付きやがるんだ。」
    パタパタと落ちた血に、クロコダイルは言って、獰猛な瞳のまま口角を上げる。
    背後のダズを下がれと言わんばかりに突き飛ばして、再び砂嵐を巻き起こした。
    「・・・ボス!」
    「良いから走れ!!!」
    その視界を砂塵で遮ったクロコダイルは、背を向けて走るダズを追う。
    海軍本部まで出てくるとは、いよいよこれは、"茶番劇"では無さそうだ。
    (・・・面白くなってきたな。)
    人知れず、笑みを浮かべたクロコダイルは、コートのポケットに放り込んである鍵を握る。
    一度"失せた"開ける気が、どうやら少し、復活してきたようだ。

    「・・・拝んでやろうじゃねェか、その"紛い物"を。」

    ######

    「ダズ・・・!お前、船回してこい!!ブツを回収したらすぐに出るぞ!!」
    「了解。無茶だけは、」
    「テメェはおれのホゴカンか!さっさと行け!」
    追手を巻く為に、細い路地を疾走する二人はクロコダイルの号令で二手に別れた。
    クロコダイルは血の付いた封筒から取り出したメモに視線を走らせ、路地裏へ消える。
    突然、細く差していた太陽の光が遮られ、クロコダイルの首が飛んだ。
    「・・・オイオイ、しつけェな。また今度遊んでやるから、さっさと檻に戻れよ、フラミンゴ野郎。」
    「そりゃァ、良い。今度ァベッドの中で会いてェなァ。」
    サラサラと、元の形状へと戻っていくクロコダイルに、ゆっくりと歩くドフラミンゴが立ち塞がった。
    赤く濡れた頬に、クロコダイルの瞳が高揚したように光る。
    「イイコト、教えてやろうか。鰐野郎。・・・その"ポーネグリフ"の"写し"、もしかしたら、本物かも知れねェぞ。」
    「・・・あァ?」
    得意気に、口角を上げたドフラミンゴを見上げて、クロコダイルは実に素直に声を上げた。
    クロコダイルの背後の壁に腕を付いたドフラミンゴは、その頬を親指で撫でる。
    クロコダイルの腕を掴む、ドフラミンゴの手は赤黒く硬化していて、ひっそりと眉を顰めた。
    「そのポーネグリフの持ち主は、"元"海兵、"ヘンリー・ハガー"。"オハラ"掃討作戦の是非を問い、革命軍に寝返った後に処刑された、海軍本部"元"中将の忠実な"部下"だ。
    海軍本部の機密情報を持ち出した罪でインペルダウンに収監されていたが、この度テメェらのおかげで脱獄したらしい。」
    隠される真実。地図から消えた島。生き残った、"悪魔の子"。
    クロコダイルは何となく見えてきた輪郭に、少し、面倒だな、と思った。
    「何故お前が、そんな事を知っている。」
    クロコダイルの見上げる瞳に、綺麗に弧を描く唇が映る。
    この世には、"曖昧"な罪で追われる人間が、大勢居るのだ。
    『"元"海兵。"ヘンリー・ハガー"。奴には、"クロムウェル"から引き継いだ、"危険思想"がある。』
    他でもない、"元帥殿"が、その名前を口にしていたのである。
    この度目出度く、インペルダウンから脱獄した脱獄囚の中で、一番あの仏の顔を歪ませた囚人。
    ほんの、さっきまで忘れていたその名前に、ドフラミンゴは心の中で舌打ちをした。
    奴ら、それを分かっていてドフラミンゴには言わなかったのだ。
    「たまたま、聞いたことがあるだけさ。分かったらとっとと返せ。鰐野郎。マジっぽい。マジで持って帰らないとマジで怒られそう。」
    「クハハハハ!政府の犬は大変だな。分かるぜ、フラミンゴ野郎。だがなァ、残念ながらおれはポーネグリフなど持っては居ない。」
    「・・・は?!いやじゃァ何で追われてんだよ?!」
    「奴らが勝手に、"勘違い"を起こしただけさ。おれは確かにその元海兵に曰く付きの品を渡されはしたが、それはポーネグリフなんかじゃ無かった。」
    ギリギリと、腕を掴むドフラミンゴの手のひらを一度撫でると、クロコダイルはふわりと口元を緩め、そのシャツの襟元を掴む。
    グイ、と、引っ張ると、されるがままのドフラミンゴの怪訝そうな顔が近付いた。
    「わにやろ、」
    何かを言おうとしたその口を、噛みつくように塞ぐと、ドフラミンゴの肩が大袈裟に揺れる。
    薄く開いた唇に、自分の舌を押し込むと、ドフラミンゴの瞳にまるで猛獣のような光が宿る。
    「・・・ッ、オイ、」
    予想外に、肩を押されてコンクリートの壁に押し付けられたクロコダイルが声を上げると、薄く笑ったドフラミンゴの手のひらがクロコダイルの頬を掴んだ。
    片手で上を向かされて、同じように噛みつかれたクロコダイルが、意地でも目を閉じないでいると、ドフラミンゴは嬉しそうにその瞳を射抜く。
    クロコダイルの口内で、長い舌が這い回り、ゾクリと、背筋が揺れた。
    「・・・わにやろォ、」
    譫言のようにその名前を呼んで、クロコダイルの腕を掴んでいたドフラミンゴのもう片方の手のひらが、クシャリと、その艶やかな髪を撫でる。
    その瞬間を、"待っていた"かのように、突然クロコダイルの体がザラザラと瓦解した。
    「うぇ・・・!?!?!?あ!!鰐野郎!!テメェ!!!」
    無意識のうちに、覇気を纏うのを止めていたドフラミンゴが、砂になって自身を通り抜けたクロコダイルを涙目で振り返る。
    至極愉快そうに目尻を下げたクロコダイルは、高らかに笑い声を上げた。
    「相変わらず発情期か。フラミンゴ野郎。今日はこの思い出で、マスでも掻いてくれたまえ。」
    「酷い!!!ほんとに酷い!!おれの事弄びすぎ!!」
    「クハハハハ!!それは悪かったな。だが、大人の世界にはそういう事もあるんだ、素人童貞君。」
    「ちょ、マジでマジで、マジで待ってくれ・・・!!」
    足元から砂と化していくクロコダイルに、ドフラミンゴが慌てて走り寄り、その腕を掴もうと手のひらを伸ばす。
    一歩、間に合わず、その手のひらを避けたクロコダイルが、存外楽しそうに笑って、ドフラミンゴの額に口づけてから、消えた。
    サラサラと風に巻き上げられた砂に、ドフラミンゴは"あーあ"、と、後頭部を掻く。
    (・・・久しぶりに、捕まえたのになァ。)


    (あー、暑ィ。)
    一方、空中へと逃げ出したクロコダイルが、真っ赤な耳でタイを少し緩めた事を、地上の"鳥野郎"は知らないままだ。

    ######

    ステンドグラスを通り抜けた太陽光が、色彩豊かな影を作り出し、埃と、朽ちた床を毒々しく照らしている。
    メモを片手に辿り着いた、その古い教会をクロコダイルは見上げた。
    神に祈る程、生真面目な人間はこの島には居ない。
    使われる事なく、長い年月が経った教会は見るも無惨に朽ち果てていた。
    腐った床を踏まないように、注意しながら礼拝堂に入ると、荒れた堂内に、どうやら"神"は留守のようだ。
    礼拝堂の一番奥で、忘れ去られたように佇む神を象る石像の裏に、その"木箱"はひっそりと置いてある。
    南京錠にポケットから取り出した小さな鍵を突っ込むと、いとも簡単にそれは開いた。
    (・・・ポーネグリフの写し、と、"日誌"か、こりゃァ。)
    箱の中に入った紙の束は、どうせ読めないので真贋の程は分からない。
    クロコダイルは一緒に入っていた日誌の方を取り出した。
    (・・・これは。)
    ペラペラと、日に焼けたその古いページを捲ると、そこには綺麗な文字でオハラ掃討作戦の詳細な記録が綴られている。
    現場を仕切った指揮官、作戦の日時、バスターコールまでの流れ。
    事前会議の内容、使われた兵器、"踏み躙られた"命の"数量"。
    (・・・クロムウェル・レベッカ。)
    その最後のページの"署名"に、クロコダイルは、ああ、と納得し、そのインクの滲みを撫でた。
    (・・・"奴ら"はこっちが、本命か。)
    オハラの大罪を、未だ疑問視する声は多く、その詳細は闇に葬られたまま、風化している。
    "こんなもの"が今更世に出れば、奴らの"正義"の上っ面が剥がれてしまう。
    (・・・相変わらず、"火消し"に必死な馬鹿共だ。)

    「わにやろー!!テメェなんかおれに隠してるだろ!!」
    クロコダイルが葉巻の煙を吐いたところで、静寂が破られ、ズカズカとピンクの塊が入ってきた。
    うんざりしたような顔で、それを振り返ったクロコダイルは、その塊に向かって歩き出す。
    「お勤めご苦労!楽しい鬼ごっこだった。」
    「え?あ?!・・・お?」
    バサリと、その大きな胸板にポーネグリフの写しを叩き付けて、クロコダイルは振り返りもせずに行ってしまう。
    ドフラミンゴは慌ててそれを掴むと、妙な声を上げた。
    「やっぱ持ってたんじゃねェか!!ちょ、ちょっと、待てよ!!いやほんとに!」
    いまいち状況の飲み込めないドフラミンゴは、高笑いをしながら去っていくクロコダイルを、小走りで追い掛ける。
    途中、剥がれた床に躓きながら、その肩を掴んだ。
    振り向いたその顔に、ドフラミンゴは気味悪そうに口角を下げる。
    「何だよ。えらく機嫌がいいな。鰐野郎。」
    「そうか?久しぶりに、会えたからじゃねェか。」
    「ウワ、調子良いぜ、ったく。」

    踵を返した二人の男を見送って、神を象る石像が、まるで、役目を終えたとでも言うように、ガラリと、音を立てて、崩れた。

    ######Epilogue

    「ドフラミンゴ・・・!!貴様戻ったのなら報告をせんか!!」
    「オー、センゴク。たっだいまァ。」
    海軍本部に戻ったドフラミンゴの前に、相変わらず不機嫌そうなセンゴクが、大股で近付いてきた。
    ドフラミンゴはその勢いを物ともせずに、呑気に長い腕を振る。
    「ブツはどうした?」
    「まァまァ、そう焦るなよ。報告書だ。あの写しは"表"にゃァ出ねェから安心しろよ。」
    ポス、と間抜けな音を立てて、ドフラミンゴがすれ違い様に何か紙切れを寄越してきた。
    そのまま手を振りながら去っていくドフラミンゴに、センゴクはため息を吐いてその紙に視線を落とす。

    『センゴクへ
    わにやろうがポーネグリフ砂にしちまった。メンゴ☆』

    その走り書きと、"元七武海"クロコダイルと、その肩を抱き、満面の笑みを浮かべるドフラミンゴが写るツーショット写真に、センゴクの肩がわなわなと震えた。
    勢い良く振り返ると、そのピンク色の塊は、廊下の窓から飛び出して行く。

    「貴様ァ!!!クビだ!!!クビ!!!!」

    仏の上げた怒鳴り声が、海軍本部を大きく、揺らした。







    「・・・何だ、"仲良しごっこ"は解散か。」
    「・・・驚いた。貴方、本当に脱獄したのね。」
    この世の片隅に、ひっそりと佇む女が一人。
    クロコダイルはその後ろ姿に、髪が伸びたな、などとどうでも良い事を思う。
    "元"ビジネスパートナーは、"あの頃"よりも随分明るい顔で、その黒い髪を揺らした。
    「おれを開放したのは、テメェの"飼い主"だぜ。なんだ、あれから顔も見せてねェのか。」
    「フフ。"今"は、修行中なのよ。彼も、わたしもね。」
    「アーアー、体育会系かよ。うんざりするぜ。」
    「こんなところまで、態々わたしの顔を見に来たの?意外と寂しがり屋さんね。」
    一度、強い風が吹いて、その黒い髪が巻き上げられる。
    女を見下ろしたクロコダイルが吐いた煙も、同じ風に掻き消えた。
    「テメェに、渡すモンがあってな。・・・こういうのは、"当事者"が騒ぐのが"筋"だぜ。」
    「・・・?」
    クロコダイルが女の傍らに放った一冊の"日誌"に、彼女は怪訝そうに首を傾げる。
    手に取った日誌のページを捲くる毎に、その長い睫毛が揺れた。
    「どうして・・・こんなものを、」
    「"拾った"。」
    言葉少なく返したクロコダイルは、くるりと女に背中を向けて、ひらひらと右手を振る。

    『政府の人間が、大嫌いなの。』

    妙に、空洞のような瞳で言った、幼い女の台詞が何故か、今更頭を過る。
    それを振り払うように、クロコダイルは振り返った。

    「"そういう類"の、人間が居たって事を、知っていても損はねェだろう。」

    それだけ言うと、クロコダイルの体は風に乗って四散する。
    それを見ていた女は、顔にかかる髪を耳に掛けた。
    その口元が、おかしそうに弧を描く。

    「・・・一体、どういう風の、吹き回しかしら。」
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