寒い日の朝に 季節に似合わぬ低気温の朝。
頭の先まで布団に沈めた少年は、直ぐ隣に横たわっている――否、己を優しく抱きしめてくれている半身へぴったりと身を寄せるのであった。
「寒い」
「私に触れていては余計に肌寒いのではないか?」
「いいや」
布団から己の足先を少しだけはみ出させた後、室内の気温を確認した少年は再び「いいや」と呟く。暖を求めて動かしたばかりの足をアオガミへと絡めるのであった。
「アオガミの方がずっと暖かい」
「私の表面温度は人間の体温と比較して低いと把握している」
「それじゃ、俺の体温が移っちゃったんだ」
目前の赤く輝く胸元に額を寄せながら、少年はそっと目を閉じる。瞼越しに届く微かな光は不思議と少年を安心させる。
「アオガミもまだ眠いんじゃないの?」
心地よい温度に包まれる中、眠りに半分浸かりながら少年は呂律が回らない口で呟いた。アオガミには睡眠が必要ないとは知っている筈だというのに。それほどに少年の思考は動いていないということであろう。
「……そうか」
数秒後、己の腕の中から聞こえてくる小さな寝息に耳を澄ませながら、アオガミはそっと黒色の髪に触れた。ぴんと跳ねた寝癖を直すのには時間が掛かるだろうと計算をしつつ、決して少年を起こさぬように。
「そうなのかもしれない」
決して起こりえない憶測。
可能性がない仮定を肯定しつつ、アオガミもそっと目を閉ざすのであった。
僅かな時間であれど、穏やかな時を噛みしめながら。