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    A_wa_K

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    A_wa_K

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    きよさん、お誕生日おめでとうございます!
    「思い合うあまりにすれ違うふたり」になってしまい、おめでとう感が非常にない点は申し訳ありませんでした…!

    #アオ主
    Aogami x V-kun

    こころ「少年、私は君に不快な思いをさせてしまっただろうか?」
    「え?」
     ――時が止まったように、とは正に今の瞬間に使われるのだろう。
     アオガミの発言が一切理解出来ずに思考が停止する一方で、少年はそんなことを冷静に考えてしまっていた。
    「……」
    「待って。アオガミ、待って。アオガミ!」
     数秒の沈黙を肯定に受け止められてしまったのだろう。少年から視線を逸らして目を伏せるアオガミ。そんな彼に少年は勢いよく抱きついた。何時にない少年の行動に驚き、小さく「少年」と呼ぶアオガミ。
    「どうしてそうなるの!?寧ろ、俺が何かした!?」
     少年の叫びが寮室内に響き渡る。
     隣室にまで聞こえるだろう声量であった。しかし、遠慮をしている余裕など少年にはないのだ。
    「君が私を不快にさせることなどあるわけがない」
    「それは俺もだよ!」
     ――ああ、こんなに叫んだ事が過去にあっただろうか。
     ――ああ、こんなに悔しくて泣きたくなることが過去にあっただろうか。
     ――ああ、こんなにも嫌われたくないと思ったことが過去にあっただろうか。
     アオガミの意図が把握出来ないという不安感と同時に、少年を襲ったのは間違いなく『恐怖』であった。
    「俺が、いつ、そんな……」
     ――アオガミに、こんな怖い思いをさせてしまっていただろうかと。
     怖くて、悔しくて、悲しくて。
     アオガミに触れる事すら烏滸がましいと半身から手を放して半歩下がり、同時に押さえきれない感情が緑灰色の眼から、涙となって零れ落ちようとした時である。
    「少年」
     焦りを含む、アオガミの強い声音。
     少年は呼ばれると同時に、強く抱きしめられていた。アオガミの腕の中で。
    「すまない、少年。私が、君を傷つけてしまった」
    「でも、それは俺が」
    「……最近、君が周囲に私について尋ねまわっていることに気付いてしまった」
     訥々と、少年の頭上にアオガミの言葉が降り注ぐ。
    「だが、君は私には何も尋ねてはこない。故に、無意識の内に私が何か君にしてしまったのではないかと」
     いつものように静かで、しかし微かに震えている声。
    「少年、すまない」
     抱きしめられる力が強まり、同時にアオガミの声を強まる。
    「私は、君を傷つけてしまった」
     ――アオガミが、傷ついている。
     先ほどまで少年の胸中に渦巻いていた『恐怖』があっという間に霧散する。
    「アオガミ」
     アオガミの背中を叩き、少年は己を抱く力を弱める事を望む。すると、即座に気付いたアオガミの力が弱まる。
     顔を動かす隙間が生まれ、少年が視線を頭上に向ける。さすれば、ゆらゆらと輝きを揺らす黄金の双眸を見つめることが出来た。
    「アオガミ」
     今一度、半身の名前を呼んで、腕を伸ばす。
    「アオガミ、怖かったよな。不安にさせてごめん」
     そっと、少年はアオガミの頬を撫でる。
    「君が謝る必要は」
    「あるよ。だって、アオガミを怖がらせちゃったんだもん」
    「私は……」
     頬を撫でる手を止め、言葉を詰まらせるアオガミの首元に少年は両腕を伸ばした。応じるようにアオガミが少年を抱き上げ、少年はアオガミの頭を撫でる。
    「私は?」
    「……怖かった、のだと、思う。君に、嫌われるなど……考えたくもない」
    「俺もだよ。だから、ごめん」
     再びアオガミの頬に両手を添えて、少年は謝罪を繰り返した。
    「俺、アオガミにお礼をしたくてさ。出逢ってから今までのこと全部に。でも、アオガミが何を欲しいと思うのか分からなくてみんなに意見を聞いていたんだ。だから、心配しないで」
    「少年、それは」
     少年の隠し事を知り、アオガミが自分に謝ろうとしてくる事を察知した少年が指先をアオガミの唇の上に乗せた。謝らないで、の意思表示だ。
    「怖いよな。俺が誰と、何を話してたのか分からないんだ。俺だって、アオガミが誰かと秘密の会話をしていたら怖い。人の心ってそういうものだよ」
    「ひとの、こころ」
    「うん」
     だから――と続けて、少年はアオガミの額に己の額を当てる。
    「何かあったら、何でも言って。俺たちはふたりなんだからさ」
     アオガミからの返答はない。けれども、くっつけた額を離されないことが回答であった。
     彼らはふたりでひとりのナホビノだ。けれども、彼らはふたりなのだ。
     意見が合わず、傷つけあうこともあるだろう。ふたりだからこそ。
    「少年」
    「ん、なに?」
    「ありがとう」
    「……うん」
     寮室に伸びる一本の影。彼らはそのまま、しばらく静かに額を通じて体温を分け合ったのであった。 
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